2010年7月15日

むすび庵便り・八尋幸隆<11>カンボジア 草を作り土を養う

水田に入り説明を聞く、カンボジア滞在中の八尋さん(右から2人目)

 有機農業を見直すきっかけは1995年、カンボジアでNGO活動をする「るしな」(代表松本清嗣さん)による、農業分野の復興支援を手伝ってからでした。当時、長い内戦を経て、先進国の支援を受けながら復興に取り組んでいたカンボジアに、日本は援助の名の下、大量の農薬・化学肥料を提供していたのです。

 これが大問題でした。この国には国際河川メコン川と、これに接続するトンレサップ湖という伸縮する大きな湖(乾期は琵琶湖の面積の4倍、雨期は16倍)があります。アンコールワットのレリーフにも大きな魚を捕獲する様子が描かれているように、クメール人は世界で一番といわれるほど、淡水魚を食べる国民。稲だけでなく多種多様な魚をはぐくむ田んぼで大量の農薬・化学肥料を使ったら、湖や川は汚染され、魚を通じ、私たちの体に取り込まれて…。まさに水俣病の構図がここにもありました。

 こうした援助に頼らず、環境に配慮した安定的な農業ができるようにしたい。そうアドバイスを求められた私は、日本での経験が少しは役に立つかと、一肌脱ぐことにしたわけです。

 カンボジアでのミーティングには松本さんの呼びかけで近隣の百姓がたくさん集まっていました。彼らは、先進国日本の「エクセレント・ファーマー」がどんな素晴らしい技術を伝授してくれるのかと期待していたことでしょうが、私は何も提案できなかった。「カンボジアにも培ってきた伝統の農法があるはず。それを掘り起こしましょう」などとお茶を濁し、ほうほうの体で帰ってきました。

 なぜなら当時の私は有機肥料として油かすを買って使っていたが、それは海外産。つまりお金のないカンボジアでは全く通用しない有機農業だったのです。

 農業は本来、そこに住む人々が子々孫々にわたり、食べ物を得るためにある。決して売るため、ではありません。ですから最も大切なことは安定的に続いていくこと。「持続可能」というのは当然であって、持続不可能な農業などあってはなりません。

 そのためにきちんと土を養っていく。いわゆる土作りが必要だから堆肥(たいひ)を使うのですが、それはどこから来るのか。金で買う有機農業が主流になって分からなくなっていますが、土を肥やすのは、すべて土からとれたもの。具体的には植物(草)なのです。もっと言えば太陽エネルギーを植物に変えることが、土を作ることだと気付きました。

 カンボジアの強い太陽は地力も消耗させますが、これを草にキャッチさせれば地力の源になります。土作りは外から物を入れるのではなく、その場所で草を作りながら養っていくのが一番。そう悟ることで、私の有機農業も変わっていったのです。 (福岡県筑紫野市「むすび庵」庵主)

=2010/05/30付 西日本新聞朝刊=

記事一覧

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]