2010年7月15日

むすび庵便り・八尋幸隆<12>模索 草は宿敵にあらず

八尋さんの畑では、生い茂る草の中でナスが育っている

 「どこまで行っても 草のあるくさ」

 立春ごろのまだ寒い時期、玉ネギ畑の草取り作業をしていたときのこと。1日数メートルしか進まない半ば修行のような作業に、たまりかねた研修生のM君が私に問いかけてきました。

 「これ終わるんですか」

 「いつかそのうち終わるくさ」と応じた私が詠んだのが、冒頭の句。なんとなく山頭火風でしょう?

 さて、農業にとって草は永遠の宿敵でした。除草剤を使わない有機農業にあってはなおさらのことです。

 「上農は草を見ずして草を取り、中農は草を見て草を取り、下農は草を見て草を取らず」。江戸時代の農学者・宮崎安貞の「農業全書」にあるように、昔かたぎの百姓は草を見れば親の敵のように思い、ひたすら草取りに励んできました。

 でも、堆肥(たいひ)とか有機肥料とかいっても、それは空から降ってきたり、地面からわき出てきたりするものでもなく、元をたどればみんな草(植物)。草が太陽のエネルギーを有機物に転換しながら、地球が始まって以来、営々として土を作ってきたのです。有機農業の根幹は環境に負荷を与えずに物質が循環するところにありますが、その中心になる草は、敵どころか実は大切な恩人なのです。

 現在、日本に輸入されている農産物の総量は、農地1200万ヘクタールの生産量に相当するとされています。日本の耕地面積は461万ヘクタールで、その38%しかありません。つまり、物質循環から考えると、膨大な量の農産物が輸入される→排出されるものを日本の農地に入れる→窒素成分がオーバーフロー。その結果、健康を害する危険が指摘されている硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)が基準値を超えて含まれる野菜が流通することになり、へたすると、有機農産物を食べて健康を害することにもなりかねないわけです。

 循環の輪が切れているところが問題の根っこ。だからこの構図は、化学肥料を有機肥料に置き換えただけでは解決しません。有機農業も進化しなければならないのです。

 私は、以前に復興支援で訪れたカンボジアで「ここでできる有機農業が本当の有機農業だ」と感じ、どうすれば他に依存せずに内部で循環し、安定的に収穫が得られる農業ができるかを模索してきました。そこでたどり着いたのが草を生かしたやり方。草を敵にするのではなく、折り合いをつけながら土作りに役立ってもらおうというのです。

 まだ試験段階ではありますが、目標は「上農は草を生かして農を営む」。現代の百姓は宮崎安貞を乗り越えられるでしょうか。

 ただ、そんな半歩前に進む取り組みが可能となるには、技術以前のもっと大切なものがあると思えます。それは一体何だと思われますか-。
(福岡県筑紫野市「むすび庵」庵主)

=2010/06/06付 西日本新聞朝刊=

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