2010年5月12日

【豊後水道 奮闘記(村松一也)】<2>刺し身

刺し身をさらしで巻き、寝かせてうまくするすし職人

魚は寝かせて食おう

 魚を寝かせる? なんじゃろ、っちお思いの方もおられるかもしれませんが、捕ってすぐのピチピチした魚より、熟成させた方がうまくなる魚が多いちゅう話です。

 「サバの生き腐れ」っちゅう言葉もあるように、そのままだとすぐに食えんくなる魚もありますが、蒲江では冬場に捕れる寒ブリは、年末の冷たい寒気を利用し、軒下に丸んまま内臓もうろこも取らんでつるします。

 この状態で3―4日。表面の皮が干物のようにかりかりになり、大丈夫かいなっちゅう見かけになるんじゃけんど、これがさばくと、コリコリ感はなくなっちょるけど、中は脂が回って、ブリ本来のうま味と甘味が楽しめるんじゃ。

 もちろん、熟成させるには、それなりの処理と管理が必要。「活(い)き締め(即殺)」「血抜き」「冷却」をきっちりやらんといけんのです。

 まずは頭の付け根の脊髄(せきずい)を専用ナイフで一刺し。これが活き締めで、魚が暴れて筋肉にいらん負担をかけんごとやる技です。最も大きな血管が通っちょるエラの所も一刺しして、血抜きします。

 締めたら海水氷の中に1時間ほど漬け込み、内臓まで一気に3―5度位まで冷却。内臓まで冷やし切ることで鮮度を落とさず熟成させることができるわけです。

 もっともこれはプロの技。ご家庭では、ブリの切り身を皮付きの状態でキッチンペーパーやさらしなどに包んだ上をラップで巻き、冷蔵庫で2―3日寝かせればOK。血合い肉のところは、血液中の鉄分が酸素と結合し、茶色っぽいさび色に変色しますが、酸化は表面だけで、問題はありません。色の変わった表面だけを薄くそぎ落とし、少し厚めに刺し身に引けば、ええんです。

 刺し身の厚さは、鮮度のいいときには、少し薄めに。熟成してうま味は出たけんど歯応えが落ちたときには、少し厚めに切るのが漁師流。そぎ落とした部分も捨てちゃいけん。塩焼きやみそ汁に入れると十分いけます。

 刺し身の大敵は酸化です。刺し身にしてしまったら空気(酸素)に触れる表面積が大きくなって、どんどん味が落ちる。じゃから、魚屋さんやスーパーマーケットで魚を買うときは、パックの「刺し身」よりも、丸のままかブロック、もしくは、その場で引いてもらってから買う方が、断然おいしい刺し身が食べられます。

 わしら漁師は水揚げした時点から、消費者にうめえ魚を届けようと、鮮度保持には特に気を配ります。だから読者の皆さんも、一手間はかかるけんど、できれば皮付きのブロックで買って冷蔵庫で寝かせて食うやり方を覚えてもらえれば、わしらもやりがいがあるっちゅうもんです。
 (「かまえ直送活(い)き粋(いき)船団」代表)

=2009/08/23付 西日本新聞朝刊=

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