2010年5月12日

【豊後水道 奮闘記(村松一也)】<3>天然と養殖

いけすから水揚げされる養殖ブリ

それぞれ良さがある

 一般的に市場に出回っちょる魚には、天然魚と養殖魚の二つがあります。同じ魚やけんど、その値段や価値となると末端の販売店では、天然物の方がはるかに見栄えのする黒地に金色の文字で「天然物」っちゅうて自慢げに表示されちょるのに対し、養殖物は、遠慮がちに隅っこに小さく「養殖」っち書かれちょることが多いんじゃ。

 確かに、ていねいに捕獲され、鮮度管理が行き届いた旬の天然魚は本当においしいです。

 例えば、寒ブリといわれる寒の時期に捕れる10キロ以上のブリのおいしさには、わしら養殖業者が相当の努力をしてもかないません。ただ、天然魚の弱点は、旬の時期が短いこと。豊後水道の南部・蒲江で水揚げされるブリの旬は、1月から3月初旬の2―3カ月間しかありません。

 さらに、同じ日に捕れた魚でも、魚体によって味に大きく差が出ることもあるし、価格もまた、そのときの漁獲量によって大きく変動するんじゃ。

 一方、養殖魚は、餌のことやら温度管理やら、手間とお金をかけて肉質を管理しちょるから、おいしい時期がより長い。

 わが家のブリも、ここ20年ほどの養殖技術の進歩で、9月下旬ごろからどんどんうもうなって、4月下旬の産卵前までの6―7カ月間、お客さんに喜んでもらえるような品質に仕上がるようになった。心の中じゃ、天然ものより派手に「養殖」っちゅうラベルを張って売りてーぐらいあるんじゃ。

 かつては作れば売れた時代もあったけど、もう、いいもんじゃないと売れん。だからわしら生産者も味や安全・安心に対して真剣に努力を重ねてきちょるわけなんです。

 さて、養殖といえば、おそらく皆さんが、いちばん気にしちょんのは、「水産用動物医薬品」。いわゆる抗生物質などの魚に与える「薬」のことかもしれません。でも、これもワクチンの使用によって、使用量は激減しました。

 北欧に遅れること10年以上。日本でも1996年ごろから認可に向けての研究が進みました。実は12年前、日本で最初に魚に対するワクチン注射の臨床試験を受け入れたのがわが家なんじゃ。

 魚に注射っち言うて、皆さん想像できますか。何万尾もおるっちゅうのに、どうしてやるん? 最初はわしもそう思うたんやけんど、消費者の人が嫌う「抗生剤からの脱却はこれしかない」と思うたし、当時元気じゃったおやじが「(互いにかむのを防ぐ)養殖フグの歯切り作業より負担は軽いじゃろ」っち、言うたことも、試験を受け入れるきっかけになりました。

 でも、魚に注射ちゃ、気持ちわりぃちゅう人もおるやろう。次回、もうちょっと詳しく話すけん、聞いちください。
 (「かまえ直送活(い)き粋(いき)船団」代表)

=2009/08/30付 西日本新聞朝刊=

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