2010年5月12日

【豊後水道 奮闘記(村松一也)】<4>ワクチン注射

ブリの稚魚に一匹ずつワクチン注射する漁師たち

免疫力で病気に対抗

 前回、魚類の注射ワクチンについて触れたのは覚えてくれちょるじゃろか。たぶん、多くの方が「魚に注射? 大丈夫なんかいな?」っち思われたことと思います。

 まず、ワクチンとは、人間でいえばはしかとかの予防接種と同じ。不活化した病気のもとを注射して、体内で抗原抗体反応が起こる条件を人為的につくりだし、魚の免疫力に働きかけるもの。いわゆる「薬」で病気を退治するんやのうて、生物が本来持っちょる生命力を上げ、病気に対抗する安全なものなんじゃ。

 皆さんもインフルエンザがはやったら、迷うことなく予防注射するでしょう? それと同じなんです。
 思い起こせば30年ほど前。養殖業が日の出の勢いっちゅうてもいいくらい、増産に次ぐ増産で、市場からも「もっと作って」っちゅう要望が多かった時代がありました。

 わしらもたくさん飼いたいけんど、養殖イカダ(いけす)は、行政の許可なしには勝手に増やせません。ならばと、いけすに入れる魚の数(放養尾数)を増やして密飼いするようになったんやけど、今度は病気の発症率が高くなってしもうた。

 おのずと投薬(魚に薬を与える)回数は増えるわな。病気で歩留まり(生残率)が悪くなった上にいらん薬代が増え、養殖経営を圧迫するようになったんじゃ。

 そのころ北欧や北米などでは、すでにワクチン開発が進んじょった。あるとき、ノルウェーから蒲江に視察にきた外国人にこう言われたのが、わしの運命を変えた。

 「日本の養殖は進んでいるかと思ったら、遅れていますね」。これがショックでショックで。それからことあるたんびに、いろんなとこで「日本もワクチン開発を急ぐべきじゃ」と言うようになった。

 今振り返ると、魚に負荷をかける当時の生産体制に無理があったことにも、早く気がつくべきじゃった。海の環境も悪うなるしの。とにもかくにも2000年にワクチン注射が認可され、それから薬の使用量も大幅に削減された。

 だが、そのころから、ブリの出荷単価が暴落!

 ワクチン接種で歩留まりも向上し、コストは下がったけんど、それ以上に魚価が下がってしまったために、さらなるコスト削減をせにゃならん状態に陥った。

 でもここで魚の品質を落とせば、一層販売不振につながる。何より、わし自身が「おいしゅうない魚」は、作りたくない。ちゅうことで、ここ数年、逆転の発想で、いけすの放養尾数を以前の6割ほどにしたら、さらに健康な魚が育つようになったんじゃ。

 うんめえ魚を届けようとわしらも試行錯誤しちょること。ちょこっとでも分かってもらえたらうれしいけどの。(「かまえ直送活(い)き粋(いき)船団」代表)

=2009/09/06付 西日本新聞朝刊=

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