2010年5月12日

【豊後水道 奮闘記(村松一也)】<5>養殖

外洋から捕ってきたモジャコ。右の3匹がブリで、左はカンパチの子

話さぬ魚と対話して

 一口に養殖ちゅうても、実際、その目で見た経験のある人は少ないでしょう。魚種によっても、飼い方は全く違うんじゃが、今回は、わしのやっちょるブリ養殖の流れを説明させちもらいます。

 ブリは2―4月、奄美近海の東シナ海や土佐湾、豊後水道などで産卵、ふ化するといわれちょる。卵は潮流に乗って潮流がぶつかる潮目に流れ込み、ふ化した稚魚は海に浮かぶ流れ藻の陰で天敵から身を守りながら一緒に移動します。藻に付く小魚(ジャコ)やけん、モジャコと言うんじゃ。

 今は、卵からふ化させる人工種苗の魚種も多いけんど、ブリの場合、行政の特別栽捕許可をもらい、自然界で自然産卵・ふ化したこのモジャコを外洋で漁獲して育てます。

 大分の場合、モジャコ漁は4月下旬から約1カ月間行われるんじゃが、漁期が短いため、しけてもめったなことでは休めません。数年に1度ぐらいは、本当に命を落とすかっちゅう、こえー思いもしますが、しけを恐がっちょったら、沖で仕事にならんのです。

 そんなんして男たちが捕ってきたモジャコを、陸(おか)で一生懸命世話しちくるるんが、おなごしたち(奥さんたち)。餌付け、選別、大きさをそろえる「通し作業」など、朝から晩まで真っ黒に日焼けしながら、モジャコ→ヤズ→ハマチ→シュントク→ブリに仕上げていく。養殖はまさに家族総出の仕事なんじゃ。

 モジャコが15センチぐらいになると、前回紹介した、ワクチン接種作業を始めます。わが家では、ブリやカンパチなど4―5万尾を養殖しちょるけど。近所の養殖業者さんと、昔の「結(ゆい)」のような仕事のグループで、計30万尾ほどを5回ほどに分けて作業します。

 魚に対するストレスを最小限に抑えるため、接種台や麻酔液への漬け込み作業など、ワクチン接種は確実でより速い仕事が求められます。わしも日本で最初にワクチン接種を始めた生産者としての誇りもあるけ、どこにも負けんつもりで取り組んじょります。

 ワクチン作業が終わると金網いけす(縦横10メートル、深さ9メートル)に移し替え、10月ごろに潮流の早い沖合の本養殖場へ移動。ブリが太ったら、またいけすを分けてと、しゃべらん魚と対話しながら1年以上かけて育てていくわけなんじゃ。

 台風時期には、命懸けでイカダを湾内に移動させたり、赤潮発生時には、眠れん夜を過ごしたり。とにかく苦難の連続じゃけど、お客さんから「あんたんとこのブリは、うめーわー」っち言われたら、それまでの苦労が一気に吹き飛ぶんじゃ。生産するもんの一番の喜びは、格好付けて言うわけじゃねえけど、自分が真剣に作ったものを褒められること。決してお金だけじゃねぇんど。
 (「かまえ直送活(い)き粋(いき)船団」代表)

=2009/09/20付 西日本新聞朝刊=

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