西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<5>住まい

「水源の森シンポジウム」で、養老孟司さん(左端)に木材の説明をした杉岡さん(右端)

家族変えた一軒家

 「左利きの人は短命傾向にあるらしい。あらゆる物が右利き仕様で作られていて、気づかぬうちにストレスを受けているのだ。現代の暮らしは便利でも、われわれに同様のストレスを与えている。そう感じないのは、脳が感覚を鈍らせているから。今、日本を覆っている閉塞(へいそく)感はこの『感覚が鈍い』ことに原因がある」

 13日、福岡市で開かれた「水源の森シンポジウム」。脳科学者の養老孟司さんの話を横で聞いていたパネリストの私に、ある記憶がよみがえりました。

 数年前、鉄筋コンクリート造り1階の3Kから、近所の木造の一戸建てに家移りしたときのこと。築20年、約30坪のどこにでもありそうな平屋で、当時、上の娘2人は小学校低学年、下の息子は幼稚園児でした。

 半年が過ぎたころ、家族の小さな変化に気づきました。泥つきの新鮮な野菜をもらっても、浮かない顔で洗っていた妻が、駐車スペース脇の小さな花壇で家庭菜園を始めたのです。

 そんなある日、スイカを食べた子どもらが、取り除いた種を菜園に植えました。水やりや草むしりをしていると、通りすがりの方々が声をかけてくれたそうです。

 「何ば植えたと? 育つとよかね」

 以来、隣のおばさんは、子ども部屋の縁側におやつを持って訪ねてくれる。夕方、息子がいないと慌てて捜すと、向かいのおじいちゃんとクワガタ捕り。休みになると、テレビを見てはどこか連れて行ってと言っていたのが、家の周りの草取りや廊下のぞうきんがけ、玄関掃除など手伝ってくれるようになりました。

 私にも変化が。ウッドデッキを作ったり、朝の散歩を始めたり、たばこをやめたり。家族がなんだか生き生きしてきて、夫婦の会話も増えました。

 「人は住まいをつくり、住まいが人をつくる」。英国の首相チャーチルの言葉ですが、この変化は何だろう。ずっと、考えていたのですが、養老さんの次の話に合点がいきました。

 「感覚を取り戻すには、身体を動かせばよい。最も効果があるのは、1次産業的な労働をすることだ」

 私の家族は一戸建てに移ったことで、内と外との敷居が下がり、木と土が身近なものになったのは間違いない。そこで眠っていた感性が目覚め、体を動かすことで、家族が能動的になった-。私はさらに一歩進め、木にはヒトを能動的にさせる何かがあると考えていますが、はてさて。

 かくいう私も現在は再びマンション暮らし。でも以前と違うのは、できるだけ生活に木を取り入れていること。ベッドの下敷きや学習机、テーブル、ベランダ、せいろ蒸し、わっぱ弁当…。皆さんもまずは木のある暮らしを始めてみませんか?

 何かが変わるかもしれませんよ。 (福岡県朝倉市「杉岡製材」専務)

=2009/12/20付 西日本新聞朝刊=

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