西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<8>地震

金物を用いた現代構法(左)と、木栓を使って部材を接合した伝統構法(右)

伝統構法は残った

 阪神・淡路大震災から15年。あの日、6千人余りの方の大半が木造建物の下敷きとなって亡くなられました。なかでも、戦後間もなく建てられた木造住宅の被害は顕著でした。でも、その後の「壊れていない建物調査」では、地震動が強いところにあっても被害の少ない古い木造建物が数多く確認されたのです。それは、くぎや金物に頼らない「伝統構法」の建物でした。

 今、それらと同様の建物を求めたとき、現行の建築基準法では建てることができないのはご存じでしょうか。現行法には金物を使用する現代構法の基準しかなく、伝統構法は枠外にあるためです。

 はじまりは1950年に制定された旧建築基準法ですが、これはその2年前に発生した福井地震の調査が現耐震法規の原点になりました。耐力ある壁面を確保する、筋交いを入れる、土台と基礎とをしっかり留めるなど、すべて金物が必須になったのです。

 これら金物や接着剤に依存する現代構法は、「在来工法」と呼ばれます。紛らわしいですが、いわゆる伝統構法とは似て非なるもの。建物そのものの寿命が、木材ではなく、それらの耐久性に委ねられているところに問題があると私はみています。

 50年には、文化財保護法も制定されましたが、法隆寺のような社寺建築などの伝統木造は、現代科学ではまだ構造的に解明できていません。建築基準法の範囲外として、すでに建っているものの扱いに限って定められたこの法により、金物などに頼らない伝統的建物は建築基準法上、認められないことになったわけです。

 59年の日本建築学会の近畿大会では、「防火・耐風水害のための木造禁止決議」が出席者500人の満場一致で採択されました。戦時中の空襲がもたらした都市火災により、「木造は駄目」との世論が背景にあったようです。以後、木造は建築の学術的研究対象から外れ、大学の建築学科などで教えられることもなくなりました。

 しかし、阪神・淡路大震災以降、戦後、日本の建築界の中で疎外され、無視されてきた伝統的木造建築に対する再評価の機運が高まってきました。なぜ、地震に強かったのか。その理由を探るべく、研究者と実務者の協働による実験や研究も進行しています。

 ただ、そのメカニズムが明らかになり、「伝統木造設計法」が実現したとしても、伝統構法の復活には大きな課題が横たわります。それは、この60年の断絶により、わが国で築き上げられ、継承された伝統的木構造の知恵を担う人材の激減です。私は、金物や接着剤に頼らない木組みの文化こそ、次世代に継承すべきだと考えますが、皆さんはどう思われますか。(福岡県朝倉市「杉岡製材所」専務)

=2010/01/24付 西日本新聞朝刊=

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