西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<9>乾燥

日本の木造建築は「割れ」の生じる木材の性質をも利用して、長持ちする家にする

「ゆっくり」が大事

 「木材は、乾燥し割れるのが当たり前。特に、木造軸組の構造材に多用される、年輪の中心を持つ製材品(芯持ち材)は顕著」-。木を扱うプロなら“常識”の話が、入居後に木材の割れる音への不安から発生した補修工事費をめぐり、未乾燥木材が木造軸組の構造材として適切かどうか争われた裁判がありました。「構造材の割れは瑕疵(かし)ではない」。それが判決でした。

 とはいえ、「割れ」に対して一般の方が抱く不安は理解できますし、良い木材とはよく乾いたもの。私も決して未乾燥材を肯定したいわけではありません。

 ただ、知っておいてほしいのは、日本の木造建築は、割れの生じる木材の性質を前提に成り立ち、乾燥が進むことで起こる縮みや歪(ゆが)みという欠点さえも積極的に利用して、長持ちする家を建てる文化であること。

 なぜ、割れても大丈夫なのか。まず、たとえ割れたとしても、数値的にゆとりある大きさの部材が使われていますし、宮崎県工業試験場のスギ柱材の実験では、イメージとは逆に、割れの多い木材の方が高い強度を示しました。だから、割れた芯持ち材の強度低下はまず大丈夫といえるわけです。

 しかし現実には、割れに対するイメージが、木の使われ方に影響を与え、かえって問題を複雑にしています。その一つが、柱や梁(はり)、桁(けた)などの構造材に使われる人工乾燥材の増加。最初こそ、割れが多発し不人気でしたが、表面割れを抑制する高温処理技術が確立すると、法律などの後押しもあり一気に普及しました。

 「自然に乾かした天然乾燥材なしに木組みはできない」伝統構法の大工さんは困りました。高温乾燥材は、表面ではなく内部に割れが発生するからです。木材を凸部と凹部に刻む木造軸組では、内部割れが肝心の凸部分をもろくします。さらに熱処理の際に樹液が排出されて耐久性が低下。茶褐色に変色し、つや、香りもなくなるなど、木の良さそのものを奪います。

 そんな欠点があるのに、高温乾燥材が重宝されるのはなぜか。その背景を一言でいうならば、使う側に時間的なゆとりがなくなったからです。

 昔はゆっくり家を造ることが当たり前でした。しかし現代は、施主もなるべく早く家を完成させたいし、住宅産業側も工期を短くしたい。このとき最大のネックとなったのが木材の乾燥だったのです。

 私は、こうしたファスト・ビルド的な現代の家づくりに一抹の不安を感じています。木材の乾燥一つとっても、人工的に何か施されなくとも自然に収まる。そんな時間の大きな流れがあってはじめて、良いモノづくりができるのに。「早さ」を求めすぎるあまり、住まいにとって大切なものが損なわれているのではないでしょうか。 (福岡県朝倉市「杉岡製材所」専務)

=2010/01/31付 西日本新聞朝刊=

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