西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<11>インフルエンザ

人体の免疫物質の増加が確認された杉材の机といす=熊本県小国町の小国中

木のパワーで撃退

 今、新型インフルエンザがはやっていますが、それでなくとも毎年この時期は、インフルエンザが猛威を振るいます。学級閉鎖も多いようですが、昔はそこまでなかったと思うのは私だけでしょうか。

 実はこの学級閉鎖の内訳を調べると、コンクリート造り校舎の学校の方が木造校舎の場合より、閉鎖率が2―3倍高いのです。

 インフルエンザのまん延や症状の悪化を防ぐ方法は、部屋を暖かくし、室内の空気に湿り気を与えて乾燥を防ぐこと。その点、木造校舎は、断熱性の高い木の床ですから足元が冷えずに温かく、私たち人間にとって快適な50%程度の湿度を保ちます。一方、コンクリート造りは、調湿機能が期待できない工業製品が多く使われ、湿度は20―90%超の間で変化します。

 空中浮遊菌やウイルスは、人や物が移動するときに舞い上がるほこりの中に存在します。実験では、空中浮遊菌は80%程度の高湿や20%程度の低湿(乾燥)環境下では長時間生存しますが、中間的な50%の湿度では大半が死滅するのが確認されています。また、さらに木の床なら、ほこりが湿気を帯び、舞い上がりにくくなる効果もあります。

 一方、免疫力の観点で木のインフルエンザ予防効果に迫ったのが、九州大学・綿貫茂喜教授の実験です。

 2004年、熊本県小国町の小国中学校1年生の3クラス(計98人)で、1組には新品の杉製、2組には新品のスチール・合板製、3組には従来のスチール・合板製の机といすを4カ月使用してもらいました。結果は、インフルエンザによる欠席者数は▽1組5人▽2組30人▽3組65人。詳しく調べると、生徒の血圧、脈拍、体温にはさほど変化がなかった半面、実験開始から2週間後、免疫機能の指標となる唾液(だえき)中の「免疫グロブリンA」の増加率が、2組1・7%、3組4・4%だったのに対し、1組は37%だったのです。

 違いは何か。教室内の空気を調べると、1組は、心地よい香りと抗菌作用があるとされるセスキテルペン(杉の揮発成分)の濃度が高かった。このことから、セスキテルペンが免疫活動を高め、風邪をひきにくくしたと考えられています。

 ここからは私見ですが、もしも木の香りが免疫活動に好ましい影響を与えるのであれば、気をつけたいことがあります。それは乾燥と塗装です。高温乾燥は、木材特有の香り成分を奪いますし、ウレタンなど強い塗膜をつくる塗料もせっかくの揮発成分(香り)を閉じ込めるので、もったいないと思います。

 「針葉樹を好み、その白木の肌を愛する嗜好(しこう)は、わが国の木の文化の基調」だといわれます。針葉樹を、自然に乾かし、何も塗らない。日本の木の文化って、奥が深いと思いませんか。
 (福岡県朝倉市「杉岡製材所」専務)

=2010/02/14付 西日本新聞朝刊=

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