2010年05月12日
【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<12>癒やし

森林に科学的効果
内閣府の世論調査によると、木造住宅に住みたいという人の割合は8割超。木の空間は心地よいと感じる方が多いのは、木に携わる私にとって心強いデータです。では、残る2割の人にとってはどうなのでしょうか。
木と森の快適さを研究する千葉大学・宮崎良文教授がこんな実験をしました。
13人の被験者に目をつぶらせ、木材と金属にそれぞれ、いきなり触れてもらいました。触れた瞬間、どちらも血圧が上がるのですが、金属の場合、血圧は高いままなのに対し、木の方は血圧が触る前より下降する傾向にありました。
血圧が上昇するのは、交感神経が優位に立つときで、一般的にはストレス状態と見なします。金属の冷たさが不快さを招いたのかもと、木材を金属と同程度に冷やした実験も行いましたが、結果は同じでした。
面白いのは「木材の触感が嫌い」と答えた人でも血圧は低下したということ。つまり、好き嫌いといった主観と関係なく、生理的に体が反応していたのです。
嗅覚(きゅうかく)は、好きなにおいには血圧が低下し、嫌いなにおいには上昇する傾向があるそうなのですが、台湾ヒノキの場合は、好きな人も嫌いな人も全員が一様に低下。白い壁とヒノキの壁を見比べてもらう視覚実験でも同様の結果が得られたことから、自然由来の刺激に触れることで、体は鎮静的な状態、リラックスした状態になる-という推論が立てられました。
宮崎教授は言います。「人間は、ヒトとなって500万年。都市化が進んだのは産業革命以降で、99・9%以上は自然の中で過ごしてきました。自然環境に適応した私たちの身体は、急激な都市化に伴う人工環境に適応できず、常に緊張を強いられるストレス状態にあるのだろうと思われます。自然対応用の脳と身体を持って、私たちは都市生活を営んでいるのです」
木に囲まれて暮らすと、心が休まり落ち着くという感性は、私たちの遺伝子の中に組み込まれているのかもしれません。
建物でこれだけの効果があるなら、緑の中で暮らせばもっと効果はあるはず。「建物の中にいると脳の3割くらいしか働かないが、森林の中では8割は働いている」。医師であり、女性初のアルプス三大北壁登山に成功した登山家の今井通子さんの言葉です。
森林の持つ癒やし効果は、これまでも「森林浴」として親しまれてきましたが、その効果については感覚的に語られてきました。そこで、それを科学的に解明し、心身の健康に生かそうという試みが森林浴から一歩進んだ「森林セラピー」。九州では福岡、宮崎、鹿児島など7カ所に基地があります。木や森を、暮らしの中に上手に取り込み、リフレッシュしましょう。
(福岡県朝倉市「杉岡製材」専務)
=2010/02/21付 西日本新聞朝刊=

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