西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<13>品種

日田杉のルーツともいわれる大分県日田市中津江村の宮園神社の老木

杉は「育ちより氏」

 わが家で食べるお米は福岡県産米の「夢つくし」。銘柄米には産地と品種という二つの要素があるようですが、杉の銘柄といえば、九州では大分県の日田杉、熊本県の小国杉、福岡県の八女杉などが有名です。それらはすべて産地の後に杉がつきますが、たとえば一口に日田杉といっても、「九州のスギとヒノキ」(宮島寛著)によれば15品種に分類されるようです。それら品種の違いは、建築に際してどんな影響があるのでしょうか。

 杉はウラスギ系(日本海側)とオモテスギ系(太平洋側)に大別されます。九州は両方ありますが、その多くは、大分県日田市中津江村の宮園神社のような社寺の境内などに受け継がれた地杉(じすぎ)の老齢木などから採取した枝を、地面に挿して発根させた「さし木」と呼ばれるクローン苗が、栽培品種として普及しました。林業が盛んになった明治30年代以降は、奈良県吉野から購入した種子を発芽させた「実生(みしょう)苗」なども加わり、九州だけでも100ほどの品種名を数えるまでになりました。

 早生型か晩生型か、樹幹が真っすぐか曲がりか、正円か楕円(だえん)か、材質は堅いか軟らかいか、赤身の色、つやはどうか、製材後にゆがまないか。こうした特徴は、栽培地にかかわらず品種によって均一に現れます。杉は「育ち」より「氏」で決まる要素が大きいのです。だから私は、品種によって構造材や板材など、用途を使い分けています。

 私が品種にこだわりだしたきっかけは11年前、福岡県森林林業技術センターで、多品種の杉の角材を持ち込んで行った強度実験。同じ杉でも3倍以上もの強度差があったのです。そのとき先代、先々代から教わった「木味(きあじ)の良い木」は強度が高いという事実に、目からうろこが落ちました。樹齢が古く、樹脂分が豊富で色つやも良く、年輪幅が狭くて木目の美しい木材は、強さも併せ持つ。美を追求すれば、強度や耐久性もおのずと付随してくる。そんな用と美を兼ね備えた日本の建築文化の奥深さを実感したのです。

 今では建物を見て回るのがいちばんの楽しみです。美しい建物かどうかはデザインの違いに見いだすことが多くなりましたが、たとえ同じデザインであっても、木の使い方次第では、より味わい深くなるのに、と思うことも多々。そんな経験を、目の前の仕事に生かすことが、私の仕事の醍醐味(だいごみ)なのかもしれません。

 今回は、多彩な杉の品種を紹介しましたが、スギの学名は「Cryptomeria japonica」(クリプトメリア・ヤポニカ)。クリプトメリアには、「隠された宝」という意味があるそうです。まだまだ隠された杉の魅力を、多くの方々と見いだしていけたら、と思います。
 (福岡県朝倉市「杉岡製材」専務)

=2010/02/28付 西日本新聞朝刊=

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