西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<14>古民家

大分県中津市山国町の神尾家住宅。手前が広間、右奥が座敷、左奥が仏間で、天井には竹が並ぶ(見学は要予約)

「山の縮図」だった

 毎年、梅の花が咲くころになると、スギ花粉の飛散が始まり、良くも悪くも杉に関心が向けられます。花粉疎開を目的に、杉林のない北海道や沖縄へのツアーもあるようですが、今は杉だらけの九州の山々も、古民家を観察すると、かつてはそうでなかったことが見えてきます。

 日本の民家を次代へ引き継ぐ活動をするNPO法人「日本民家再生協会」に入会して10年。各地の民家を訪ねてきましたが、1771(明和8)年築の国指定重要文化財民家「神尾家住宅」(大分県中津市山国町)は、その節約した木の使い方が特に印象的でした。

 太い梁(はり)丸太など、松が多用される一方で、杉は柱や建具などに最小限度、細めの丸太からとられた部材を使用。その代わり、竹がたくさん使われていました。床の3分の2は、竹を並べた上にむしろが敷かれ、天井は各部屋すべて竹で仕上げられるという徹底ぶり。少し時代の下った古民家は床も畳敷きか板敷きで、いろりのある広間以外は板天井が多いので、初めて目にしたときには驚きました。

 なかでも、天井への竹の使い方は特筆もの。広間には太い竹、仏間には細い竹、そして座敷には竹を平らに延ばした「ひしゃぎ竹」と、意匠を変えることで部屋の格式が表現され、じつに豊かな竹文化がこの地域にあったのだと気づかされました。

 建物を見たとき、私は230年前の山々をこう推測しました。「当時の山国では竹林が大勢を占め、杉やヒノキは少なく、松林や雑木林がちらほら、という姿なのではなかったか-」

 数年前、当時の山の姿を伝える古文書の記録を見る機会がありました。1717(享保2)年に記された、のちに一大林業地帯となる豊後国日田郡鎌手村(現大分県日田市大山町)の明細帳。そこには竹やぶが18か所、竹やぶと雑木混生が8カ所、雑木山7カ所、小松山2カ所などとあり、杉山は見当たりません。「民家は山の縮図」という見立てに手応えを感じました。

 さて、現代の住まいと山の関係はどうでしょうか。日本の国土の3分の2は山林で、うち4割が人工林。その4割は杉です。でも、木材自給率はパルプ用材なども含めて20%。杉やヒノキと縁遠い生活を送っておられる方が大半ですが、人間も自然界の一員である以上、食と同様に住まいも、「そこにあるもの」を生かす暮らし方の方が理にかなっているはず。特に、都市の中にこそ、木や森の癒やしの力が必要とされているのではないでしょうか。

 その一方で、私たちの提供する商品のなんと少ないことか。後世の人々に「住まいは山の縮図」であると分かってもらえるような、木の使い方の提案が、木に携わる私たちの使命だと思えるのです。(福岡県朝倉市「杉岡製材所」専務)

=2010/03/07付 西日本新聞朝刊=

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