西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<15完>継承

祖父に肩車された私
私の3人の子どもたち

山の姿に思いはせ

 3年前のちょうど今ごろ。山好きだった祖父の命日に合わせ、小学校低学年の娘2人と幼稚園児の息子1人を連れ、車で10分ほどの近場の杉山へと向かいました。そこは、祖父が若いころに初めて購入した思い入れの深い山でした。

 山に着くと50年生の木立に点在する、樹齢80年ほどのひときわ大きい残し木に日本酒「老松」をかけ、みんなでお参りしながら話をしました。

 「人はせいぜい80年ほどしか生きられないけれど、木は長生きするんだよ。数千年も生きてる木がいるんだから。この木は今80歳。おまえたちが、お父さんくらいになったら、どのくらい大きくなっているかな? お父さんがまだ小さいとき、おじいちゃんにも同じこと聞かれたよ。おじいちゃんが死んで今日で3年がたったけど、今でもこの木と一緒に生きている気がしない? お父さんの心の中にはおじいちゃんがまだ生きていてね、悩んだりしたときは、一人でこっそりここに来てるんだ」

 すると子どもたちは「ひいじいちゃんの木だ」と笑いながら山の頂に向かって、「おじいちゃん、また来るね!」と大声で叫びました。そして帰り道、大人になったら自分の子どもを連れてくる、と言ってくれました。

 「なぜ杉なのか」。連載中、何度もこの質問を自分に投げかけながら、根底には、祖父のまなざしがあることに気づかされました。この世を去った後の山の姿に思いをはせつつ、木々を見上げる祖父のしぐさ。それが脳裏に焼きついているからこそ、花粉症や土砂崩れなどで杉の人工林が悪者扱いされるたび、悔しさがこみ上げてくるのです。本当に杉は厄介者なのか、と。

 3年前に聴いた講演会。宮崎県木材利用技術センターの有馬孝禮(たかのり)所長が示された、石油はあと46年など、資源の限界を示した鉱物・化石資源の可採年数表(資源エネルギー庁、1998年)で、「鉄鉱石232年」という項目を見たとき、「鉄さえも有限なのか!」と衝撃を受けました。

 私は悟りました。地下資源を次世代に少しでも多く残すためには、再生産が可能な木材という資源をできるだけ使ったほうが良いことを。多くの方にとって230年後は、はるか遠い未来でしょうが、私のような高樹齢の木材を取り扱う者のモノサシでは、それは身近な時間なのです。

 親から子、子から孫へと継承してゆく。そんな環(わ)を紡ぐことを忘れず、木挽(こびき)棟梁(とうりょう)の道を精進していきたいと思います。ありがとうございました。 =おわり
 (福岡県朝倉市「杉岡製材所」専務)

 【食農取材班より】4月24日、西日本新聞会館(福岡市・天神)で杉岡さんの連載終了記念講演を行います。詳細は決まり次第、お知らせします。

=2010/03/14付 西日本新聞朝刊=

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