西日本新聞

2010年07月15日

むすび庵便り・八尋幸隆<1>農旬会 作る楽しさを伝授

「むすび庵」庵主の八尋幸隆さん。有機農業を目指して就農し、旬を生かす取り組みに努めてきた

 冬のある日曜日。私が庵主を務める「むすび庵(あん)」は、冬の寒さをけ散らすように熱気に満ちていました。農からのメッセージを伝えようと、仲間たちと13年前に始めた月例会「むすび庵で農と旬を語ろう会」(以下、農旬会)で、「漬物つくりと郷土食がめ煮つくりに挑戦、ついでに包丁研ぎも」を行ったのです。

 講師はわが家に農業を学びに来ている農業研修生。私が前もって伝授した技を30人余の参加者に教えます。白菜漬け、高菜漬け、たくあんの漬け方を一通り披露したところで、「誰かやってみませんか」と呼び掛けると、母娘で参加した若くて美しい女性が出てきました。おそらく漬物を自分で漬けるなどとはこれまで考えたこともなかったのでしょう。「家に帰ってやってみる」と、喜々として取り組む様子に、こちらもうれしくなりました。

 私がいわゆる有機農業を目指し、就農したのは37年前。生命を養い、健康を培うものであるはずの食べ物が危ないものになろうとしていた当時の状況を、何とかしなければとの思いからでした。その後多くの人たちの努力で、有機農業という言葉は市民権を得て誰でも知るところとなり、有機農産物も特に珍しいものではなくなりました。

 しかし、その一方で生産者と消費者、農村と都市の結びつきはむしろ希薄になってきたように思います。「安心・安全」という言葉が合言葉のように社会に流布していますが、依然として食品偽装など食に関する問題が後を絶ちません。なぜなのでしょうか。

 それは「食卓の向こう側」のことがきちんと伝わっていないからだと思います。だから農と食についての情報はたくさんあっても、生産者と消費者の理解を深めることに、必ずしもつながっていないのです。

 その一方で見つけた希望が、160回を超えた「農旬会」の中で、農や食のことをもっと知りたい、体感したいという人が、意外に多いのを知ったこと。

 農ある暮らしの醍醐味(だいごみ)。それは、実際に自分の手を動かすことで「旬を食べるとは、旬を生かすとはどういうことか」を体感できること、そして「自分にもできた」という喜びです。

 これからの連載で、農の世界にはまって逃れられなくなった人たちの話を紹介していきますね。お楽しみに。 (福岡県筑紫野市「むすび庵」庵主)

    ◇   ◇

 ▼やひろ・ゆきたか 1952年、福岡県筑紫野市出身。73年、九州大在学中に有機農業を目指して就農。78年、福岡県農業改良普及員の宇根豊さんらと、減農薬稲作運動にいち早く取り組む。妻・美智子さんと西鉄朝倉街道駅から徒歩1分の場所に直売所も持つ。直売所=092(929)4001。ホームページは「むすび庵」で検索を。

=2010/03/21付 西日本新聞朝刊=

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