西日本新聞

2010年05月12日

【木挽棟梁のモノサシ(杉岡世邦)】<1>適材適所

材木を前に笑みがこぼれる木挽棟梁、杉岡世邦さん

木の魅力伝えます

 「パパ、子どもたちの布団にカビが生えてる。どうすればいいかな?」。帰宅した私に、妻からこんな相談を持ちかけられたのは、インフルエンザが猛威を振るった今年2月のこと。

 「カビ? まだ冬なのに」「そうなのよ。加湿器をたいとったけんかなあ」

 この子ども用の3段ベッドは、買って3カ月ほどたったばかり。しかも素材は楡(にれ)の無垢(むく)材。目にするまでとても信じることはできませんでした。

 早速子ども部屋に入り、ベッドの敷布団をめくると、すのこと敷布団の接する部分に青カビがびっしり。「なぜだろう? すのこは最も湿気を吸ってくれる桐(きり)だよな。風通しもいいはずなのに…」

 私の住まいはマンションの4階。機密性の高い空間ですが、子ども部屋は温度差が激しい北東に面しており、サッシには冬の朝、おびただしい量の結露が発生します。すのこだから、かえって湿気を布団が吸い込んでいるのではないか。そう思った私にあるアイデアがひらめきました。建築で使う厚さ40ミリの杉の床板をすき間なく敷き詰めてみたのです。

 まず、子どもたちが大喜びしました。厚い杉板は軟らかさを感じますし、冬だとほのかに温かい。それでいて手のひらや足の裏の湿気を一瞬にして吸いとってくれ、さわやかな肌触りです。さらには、杉の芳香が部屋中を満たしてくれます。いつの間にかカビのことなど忘れ去り、梅雨を迎えていました。

 さて観測史上最も長いといわれた今年の梅雨、はたしてこのベッドの布団の裏はどうなったでしょう。

 結果は良好。カビなどまったく発生しませんでした。私はあらためて杉の力を実感するとともに、マンション住まいで同じ悩みを抱えている方が多いことを想像しました。

 今、杉といえば、あまりよい評判は聞きません。花粉症になるとか、杉ばかり植えずにもっと広葉樹を植えてりゃいいのに、とか。でも用材としては、これほど身近で、高品質の割に低価格でかつ、環境への貢献度が高い木材はありません。要は適材適所なのです。

 このコラムでは木挽棟梁(とうりょう)という私の仕事から見た知られざる木の魅力、生かし方、良い木の見分け方といった情報を、お伝えしたいと思います。その上で、木の向こう側にある林業のこれからを、皆さんと一緒に考えていければ、ありがたいです。

    ×      ×

 ▼すぎおか・としくに 1969年生まれ。福岡県朝倉市杷木で製材業と林業を営む。山好きの祖父が62年前に創業した「杉岡製材所」の3代目。ネットで「杉岡製材所」を検索すると、携わった家屋が見ることができる。

=2009/11/22付 西日本新聞朝刊=

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