2004年6月15日

食卓の向こう側・第3部 給食 未来をひらく<1>食事難民 子どもを守るトリデ

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給食のスタイルは多様化。福岡県春日市の中学校では注文式の給食弁当を取り入れている。自宅から持参した弁当、校内売店で買ったパンやおにぎりを食べる生徒も

 食卓の向こう側・第三部「給食 未来をひらく」では、だれのための、なんのための給食かを見据えながら、現状と課題、そして給食の向こうに横たわる社会の姿に迫ります。

 「食べていない」「食べていない」「食べていない」…。
 九州北部の小学校で行われた食生活調査。家庭での食事内容を書いた高学年男児の調査用紙には、目を疑うような言葉が並んでいた。
 対象の金―日曜日の三日間のうち、男児が家庭で口にした食事は、日曜日夜の「ハンバーグ、ごはん、やさい」の一回だけ。感想欄には「なにも食べてないからわからない」(金曜日)、「おなかがとてもすきました」(土曜日)、「ひさしぶりに食べたのでおいしいと思いました」(日曜日)。

  ×   ×

 「家庭が落ちついていなくてですね。何も食べていないわけではなく、食事と呼べるものが与えられていないようなんです。給食ですか。二人分は食べています」。児童の事情を知る教師は声をひそめて話した。
 「極端な例」と言われるかもしれない。だが、“普通”の小、中学生でも、給食のない日は、給食のある日より、栄養の充足率が下がる傾向がある。給食で命をつないでいるのは、決してこの男児だけではない。
 朝食抜きで登校し、午前中にエネルギーが切れて机に突っ伏す子。一人でテレビ相手の食事が多く「みんなで食べる給食が好き」という子。
 「今日は給食があるから、まあいいか」。そんな親の意識を背景に「飽食の中の“食事難民”が増えている」と、この教師は思う。

  ×   ×

 福岡都市圏の小学校に勤務する女性教師は「給食の時間は苦痛です」。
 給食タイムは四十五分間だが、準備や後片付けを除くと、実際に食べる時間は十五分から二十分の間。「ゆっくり、よくかんで」と言いながら、子どもをせかせる自分がそこにいる。
 かつての「教師が横に立って、残さず食べるまで見ている」光景は、今はない。食物アレルギーによっては、牛乳が手にかかっただけで発症し、病院に運ばれるケースもあるからだ。
 親の変化もある。嫌いなものが入っていたのか、おかずを箸(はし)でつつくばかりの子に「一口だけ食べてみようか」と促した翌日、「好き嫌いがあっても今は違うものを食べて補えるからいいじゃないですか」。同世代の母親から猛烈に抗議された。
 「食べることは、生きる力と直結している。好き嫌いのない子は、友達にも好き嫌いがないし、なにごとにも前向き。その一環と思って指導したんだけど」と悩む。

  ×   ×

 戦後の学校給食は、食糧難の中で子どもたちの栄養確保のため、米国の援助物資などをもとに始まった。今は「栄養バランスがとれている」「弁当をつくる手間が省ける」との理由で、給食に期待する親も多い。
 「一日三回のうちの一回、一年間で百八十回の食事。子どもの食は学校だけではない」(学校給食関係者)。だが、偏食、孤食など、家庭の食が崩壊の危機にさらされている状況で、給食は、子どもの心と体を守る最後のトリデといった感すらある。

×   ×

■給食のない日は栄養摂取量下がる
 日本体育・学校保健センターが1997年、全国の小学5年生と中学2年生計4600人を対象にした食事調査によると、給食のない土曜日は給食のある平日に比べ、カルシウムや鉄分など脂肪以外の多くの栄養素の摂取量が低くなっていた。
(2004/06/15,西日本新聞朝刊)

■食卓の向こう側・第3部 給食 未来をひらく
(2004/06/15~06/29掲載)
1. 食事難民 子どもを守るトリデ
2. カロリー 現場の声が出せない
3. O157 可能性を消す作業
4. 無菌社会 「ままごと」ですか?
5. 自校とセンター 何を優先して選ぶ
6. 個別対応 わがままではなく
7. 壁 相互理解がないと
8. 小さな一歩 子供の「個性」認め
9. 政策 「健康第一」原点に
10.虫 「異物」と見ないで
11.椎田の挑戦(1) 循環授業が変えた
12.椎田の挑戦(2) 「横やり」はねのけ
13.椎田の挑戦(3) 200分の1が動かす
14.椎田の挑戦(4) 人が地域が結びつく
15.変える技 子どもから家庭へ

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■食卓の向こう側(3)
 「私たちはもう栄養のことは忘れてしまった。昔あった、白あえ、いり卵、ポテトサラダだって給食の献立からはずされた。扇風機で冷やすと、菌が舞うという理由から」
2004年6月、福岡市で開かれたシンポジウム「学校給食で未来を創ろう」の一場面。パネリストの給食調理員の言葉から、行政に対する、半ば、あきらめにも似た無力感が伝わってきた。「トマト以外の野菜は、七五度以上の熱湯で一分間以上ボイルすることが義務づけられた。栄養価、食感を考えて、みずみずしい生野菜を提供したいが…」
 シリーズ第三弾は学校給食。「現場の声」が出せない構図や、アレルギー対応、地産地消に取り組む自治体の挑戦などが主なテーマ。だれのための、なんのための給食か。子どもたちのためには、何が大事で、何をすべきか。揺らぐ食を探り、給食の重要性を説いている。

A5判ブックレット/500円
(★詳細はこちら

◎食卓第3部・ブックレット

1. 「ひさしぶりに食べたのでおいしいと思いました」(日曜日)
2. 「園名は絶対に出さないでください。行政に、にらまれますから」
3. 患者らに払った補償金は、これまで約5億7千万円。補償交渉は今なお続いている
4. 「20年後の子どもを思うと保育理念は曲げられない」
5. 「先祖代々食べてきた地元の素材を子どもたちに伝えたかった」
6. 「さまざまな事情を抱えた子どもとの試行錯誤こそ、多様な生き方を教えてくれる」
7. 目的が除去食実現ではなく、子どもの豊かな学校生活になったとき、壁は崩れる
8. 先生が授業でも読んでくれ、子どもたちには自然な気遣いが生まれた
9. 余っているから米飯給食ではない。子どもらの健康を思えばこその米飯給食なのだ
10.「給食畑のおばちゃんが作ってくれたけ、もう少し食べよ」
11.「山の木にはだれも肥料をやってないのに、なぜ木が生えるんだろ?」
12.事実を突きつけられた学校給食会は黙り込んだ
13.「『夢つくし』を植えたらどうですか」
14.「何が変わったって? 椎田の子どもの健康を守る誇りと、農家としての自信だよ」
15.「食を変えるプログラム」。中村は自らの授業をこう呼ぶ

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