2008年5月15日

食卓の向こう側 第11部 安全漂流<1>期限表示 誰のための鮮度ですか

■シリーズ 食くらし■
 福岡市のデパ地下にある有名総菜店。「ただいま出来たてでーす」。店員がショーケースに運んできた総菜は、彩り鮮やかで食欲をそそる。
 「店内で調理するものと思ったら、業務用の食材パックを開封して盛り付けるだけだったから驚いた」
 この店で一年半前まで働いていた女性(48)は、そう言って失笑した。
 キュウリやタマネギの千切りまで、いつ作られたのか知らないまま食材パックを移し替え、出来たてと宣伝する。
「客をだますような意味では、(表示を改ざんした)船場吉兆や赤福と同類だと思う」と語る。
 「日本の消費者は特に鮮度にこだわるから、企業は期限表示を『販売戦略』に利用する」。食品業界に詳しい男性は、こう指摘する。例えば、本当は七日後まで食べられる総菜を、「本日中」との消費期限で販売する。売れ残れば翌日また、「本日中」の期限に書き換える、という手法だ。
 「最初から一週間持つと書くより、新鮮に見えるでしょ。法的にも、衛生上も問題ないし、実際その方が売れる」
 本来、食べる人の健康を守るものであるはずの期限表示が、商売の“道具”になっている。偽装が相次いだ背景に、そんな構図が見える。

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  表示を道具に売り上げを競うとどうなるか。牛乳業界に教訓が残る。
 いわゆる「D-0(ディーゼロ)問題」。DはDAYの略で、製造からゼロ日、つまり製造当日を意味する業界用語だ。
 スーパーが急増した約三十年前から、「新鮮な品ぞろえ」の競争が激化。集客の目玉商品である牛乳は格好のターゲットとなり、乳業メーカーはD-2からD-1、D-0へと、パック詰めから納品までの時間短縮に躍起となった。
 ところが、牛乳は通常、大腸菌群検査だけでも結果が出るまでに約十八時間かかる。つまり、日付が変わる午前零時から詰めても、開店までの納品は無理。結局、「十分検査しないで出荷した」(日本乳業協会職員)。もし、何か問題が見つかっても、すでに販売されて回収できない。暴走した企業が切り捨てたのは、「消費者の安全」だった。
 表示が、製造年月日から賞味期限になっても続いた過度な鮮度志向。それが、二〇〇〇年に起きた雪印乳業食中毒事件の一因と指摘される。

   ×   ×

「食料自給率39%の日本が、食べられる物を売れないなんて」。福岡県小郡市の牛乳販売業・堀江義博(70)は憤る。
 卸し先のスーパーからは、「一日たつと売れない」と期限前でも返品された。売れる数だけ納品しようとしたら、「棚を埋めないと客が来ない」。返品の嵐に借金がかさみ、とうとうスーパーへの卸業から手を引いた。
 「販売を始めた四十二年前は、『期限は今日中』という牛乳を配達したって、文句言うお客さんはおらんかった。世の中変わりましたね」
 ある乳業関係者は言う。「牛乳は、賞味期限後にすぐ悪くなるわけじゃない。なのに、『鮮度勝負』というイメージをスーパーや消費者に与え、一日の差を競わせた責任は、私たちにもある」
 メーカーや売り場は、品質より表示競争に追われ、消費者は食べられる物も買わなくなる。そんな「鮮度」が、誰に豊かさをもたらすだろうか。

   ×   ×

中国製ギョーザ中毒事件について日中首脳会談で真相究明が強調されたり、表示偽装事件が続出したり…。今、国内外を問わず食への信頼が揺らいでいます。「食卓の向こう側」第11部では、食の安全・安心問題を探ります。 (敬称略)

■食卓の向こう側 第11部 安全漂流
(2008/5/15~5/20掲載)
1. 期限表示 誰のための鮮度ですか
2. 検査 水際での限界浮き彫り
3. 飼料高騰 身の丈の「地域内自給」
4. 大量生産 消費者が“工場”求めた
5. 基準 「できるだけ」を心掛け
6. 自給率 日本人の胃 満たすのは/何を選んでいきますか

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