2009年2月18日

食卓シリーズ・第12部 価格の向こう側・私たちの生活防衛術<1>買い物実験 いい食材は高くつく?

 昨年12月に連載した「食卓の向こう側」第12部「価格の向こう側」には、読者から多くの感想が寄せられました。その声をもとに、パート2の今回は、私たち自身にできる“生活防衛術”を考えます。

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 「生産者の見える食材を扱う生協などを利用しますが、周りに勧めても『高いでしょ?』という反応です」(北九州市小倉南区の34歳女性)

 主婦になり、現在東京で暮らす記者(34)も、その気持ちはよく分かる。原材料や生産方法にこだわった食材は確かに高い。例えば米酢。同じメーカーでも造り方の違いで、180円から890円まで幅がある。そんな話をしていると、先輩記者がこう言った。

 「高いといっても、1日当たりに換算したら大した額じゃないだろう」
 視点を生産者側に置くと、そうなるのは理解できる。でも、家計を考えると素直にはうなずけない。「買うのは一品だけじゃない。食材全体を厳選すれば、食費はかなり上がる」と返した。

 ただ、実際どれほどの差額になるのか、見当がつかない。そこで実験。夫婦2人世帯の私自身が1カ月間、極力良質な食材を選び、スーパーで最安値品を買った場合との差額を調べてみた。

 基準は、できる範囲で、有機・無添加・国産原材料のもの。最寄りのスーパーだけでなく、有機野菜を扱う自然食品店なども利用した。

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記者は、有機中心の買い物とスーパーで最安値品を選んだ買い物の価格差を1カ月間調べてみた=東京
記者は、有機中心の買い物とスーパーで最安値品を選んだ買い物の価格差を1カ月間調べてみた=東京

 野菜については、意外だった。小松菜一把の差が有機とスーパーの安値品で二円しか違わないなど、思ったより差がないものもあった。国産の半値の輸入品も多かったが、旬だったレンコンやニラなどは、無農薬の方が安い日もあったほどだ。

 夫婦とも外食はせず、副菜は野菜中心だった1カ月。消費量が多く、野菜の価格差は1カ月で3000円になったが、1日換算では百円、1人当たり50円の上積みだ。野菜ジュースを買うより、新鮮で安いともいえる。

 次に調味料。1カ月間に購入したのは、しょうゆ、だしじょうゆ、油、料理酒、コメみそ、豆みそ。一キロ198円から1300円まで並ぶみそなど、調味料の値幅の激しさには驚いた。

 実験では“最上級品”と最安品を比べたので、調味料の差額は4000円に。でも、調味料は一度買うと数カ月は使う。わが家の消費期間に応じ計算すると、1日当たり計約36円の差になった。

 これを高いと見るか、安いと見るか-。今や、サプリメントなど健康美容食品市場は2兆円規模となり、1日約180円分の菓子を一家族が買う私たちの暮らしぶり。そんな現状をみると、命を守る食材は決して高いとは言えないだろう。

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 実験で、いい物が安くつく方法も見えてきた。

 一例がかつお節。上質の本節は一本が約1600円だったが、スーパーで最も安いカツオパックは一本分と同じ量だと約1900円にもなる。百グラム千円の有機茶葉も、一晩水に浸せば、500ミリリットル分が25円以下で作れる。

 いい物で安いなら言うことないが、壁となるのが準備の一手間。長年、食べたい物を食べたい時に…という生活を続けた私は、「事前に削る」「一晩浸す」といった段取りが苦手だ。割高でも、便利な物を選びたくなる。

 そもそも、実験中に最も「高くついた」と感じたのは、買った野菜を腐らせたときだった。
 いい物を食べていけるかどうかは、「段取り力」「保存の技」の有無も大きいようだ。同時にそれは、食糧危機が来た場合に身を助けるすべにもなる。連載では、いろんな実践例を紹介したい。

■食卓シリーズ 第12部 価格の向こう側・私たちの生活防衛術
(2009/2/17~2/25掲載)
1. 買い物実験 いい食材は高くつく?
2. 連続ドラマ 台所をリストラする技
3. しまつの技 貯めては腐らす冷蔵庫
4. 貯める技 鍋釜なくして安定なし
5. 蓄積 台所仕事がビジネスに
6. 買い物 社会に一票投じる行為
7. 流通 価格差を超える売り方
8. 記者ノート 「買って守る」消費者に

■食卓の向こう側第12部 価格の向こう側
第12部 携帯電話代やレジャー費、菓子代など、そうした「家計から減らせないもの」の出費に押されて底値買いで削られていく食費。「家計の都合」を背景に、生鮮食品までが、まるで家電製品かのような激しい底値競争に巻き込まれています。
 その構図が、正直な生産者やメーカーを追い詰め、ますます偽装を生みやすくするのではないだろうか。本書は、そんな疑問を提示することからスタートした連載「価格の向こう側」(2008年12月16日―25日、09年2月17日―25日)を中心に、連載の内容をテーマにしたシンポジウムの詳報、取材班に寄せられた読者の声や関連資料を収録し、再構成しました。モノの価値と、地に足のついた生活防衛術について考えます。

A5判(ブックレット)、96ページ、
定価500円。
(★詳細はこちら

~価格の向こう側・私たちの生活防衛術~
1. 買い物実験
一カ月間、極力良質な食材を選び、スーパーで最安値品を買った場合との差額を調べてみた
2. 連続ドラマ
「いい仕事ができたという、ものづくり特有の感動が味わえるんですよね」
3. しまつの技
「『あなたは山小屋の主人ですか?』とでも聞きたくなる」
4. 貯める技
「どんなときも健全に生き抜くには、当然のようにお金を払っていたことを見直すこと」
5. 蓄積
「金さえ出せば、何でも買える時代だけど、それでは何も残らない」
6. 買い物
「賢い主婦はスーパーで手前に並んでいる牛乳から買う」
7. 流通
「お客のさんの『なぜ』に答えられれば、多少の価格差は乗り越えられる」
8. 記者ノート
消費者が投じる「一票」は、食の現状を良くも悪くも変える力を持つ

連載に関する感想、意見をお寄せください。
〒810‐8721、西日本新聞社編集企画委員会「食 くらし」取材班へ。
ファクスは092(711)5004。メールはshoku@nishinippon.co.jp

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