2008年03月01日
【特集】危機迫る山村・森林 データで見る現況

荒廃が懸念される九州の山林

山が荒れると土砂流出が起きるなど防災機能も低下する
人々が山や田畑とかかわりながら生きてきた九州の農山村。その暮らしを支えてきた森林に、いま危機が迫っている。国産材は輸入材に押され、林業が続けられるほどには高くない。担い手の高齢化や減少で、山林は手入れもできずに荒れていく。「限界集落」に象徴される地域の再生に深くかかわる森林の現状を、担い手や価格データなどに基づいて考えた。

1955年に94・5%あった日本の木材自給率は、60年に丸太材、85年に製材の輸入自由化で急激に低下した。それがやや持ち直したのは80年代。オイルショックの影響で需要が低迷し、60年代に植林した木が伐採期を迎えて産地が売り込みに努力した結果だった。 しかし、85年のプラザ合意で、円高が九州のスギ生産を直撃。安く輸入される外材を前に、自給率は再び下降した。 また、接着剤で材木をはり合わせた北欧の集成材輸入が追い打ちをかけ、自給率は2000年以降、最低レベルの18%台に落ち込んだ。 ここ数年は中国、インドの需要増や、資源保護を理由にしたインドネシア、ロシアの輸出抑制などで市場が逼迫(ひっぱく)。国産材を見直す流れも出て自給率は戻っているが、それもわずかだ。

スギの立木はピーク時の八割安で、山村の林業経営に影を落としている。 日本不動産研究所と農林水産省によると、スギ材の価格(一立方メートル当たり)は一九八〇年をピークに低落。2007年の価格を1980年と比べると、製材品(正角)は62・0%、丸太(中丸太)は33・6%。立木はわずか14.8%で、2万円台から3000円台まで落ち込んだ。 下落した要因は、外国産材の需要拡大だ。外国産材は国産材よりも乾燥しているので、加工しやすい。供給量も安定している。林野庁によると、国内需要の八割を外国産材が占める。 国産材価格の低迷は、立木を伐採し、運び出す「山元」と呼ばれる山村の林業経営を直撃している。 山元に価格のしわ寄せがきているのは、製品加工や流通段階の経費を差し引いて立木価格が決まる仕組みになっているためという。

九州の森林資源は、スギ、ヒノキなどの針葉樹を植林した人工林の比率が高いのが特徴だ。九州森林管理局(熊本市)によると、2002年3月現在、九州の国有林約53万5000ヘクタールのうち、人工林は57%、天然林は40%を占める(残りは竹林など)。民有林も加えると、人工林と天然林の割合は、ほぼ六対四となっており「九州は温暖で雨が多く木の成長が早いなど、林業が盛んとなる条件が整っていた」(同管理局)という。 戦後復興の中で、木材需要の高まりから価格が高騰。農山村の人々が「林業で食べていける」と期待し、所有する山地に熱心に植林したことが、現状につながっている。 樹木の成長年数は、植林から5年までを「一齢級」、6年から10年を「二齢級」として、5年単位で数えていく。1950年代から植林された人工林は、既に伐採して木材として使用できる大きさまで成長しており、31年から45年までの七、八、九齢級の森林面積が、全体の中でも最も多い水準にある。 ただ、現状ではコスト的に厳しいために、伐採時期を迎えた森林が、手入れをされずに成長している一方で、皆伐後に再造林されず荒廃が進む現象も起きている。 九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授は「人工林を伐採、利用、植林することで資源を循環させることが必要」と指摘する一方、河川沿いや急斜面まで植林され過ぎた側面があることも踏まえて「伐採後に天然林に戻すなど天然、人工林の適正な配置も検討しなければならない」と説明する。 九州の森林は、危機に直面しているが、バランスに配慮した対応を心掛ければ持続可能な山林として再生される転機にもあるといえる。


林業に従事する労働者数は全国的に減少を続けている。国勢調査によると1980年に約16万5500人だった人数は、2005年には約4万6600人。この10年間だけでもほぼ半減している。九州でも80年の約2万3600人から約7600人(05年)に減っている。
森林総合研究所関西支所(京都)の田中亘主任研究員がまとめた九州・沖縄の林業労働者の年齢分布では、95年に割合が高かった50-60歳代層が2000年、05年では引退。年齢構成が平準化する傾向にあるという。
田中主任研究員は「林業は収入面などで若者が魅力を感じる状況になっていない」と指摘。さらに、最近の景気動向を反映して、50歳代以上も比較的に高収入が得られる他産業へ流出する傾向がみられ、九州・沖縄の労働者数を、10年には2000年(約11800人)のほぼ半数の約6000人に、30年にはほぼ4分の1の約2800人にまで減少すると予測している。
一方、65歳以上が全年齢に占める割合を示す高齢化率(05年)は、全国の26.2%に対して九州は24.4%とやや若い。
九州経済調査協会の豆本(とうもと)一茂研究主査は、「九州は、もともと林業が盛んで産業として成り立っていただけに、全国に比べると若い人もいる」としながらも「林業を支える収入があげられない状況の中、高齢化が進む厳しさは全国とさほど変わらない」としている。
=2008/03/01付 西日本新聞朝刊=

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