2005年10月29日
食卓の向こう側シンポin久留米 「子どもの食」に危機感

=8日、久留米市
スローフード協会筑後平野と西日本新聞社は八日、「食卓の向こう側シンポジウムin久留米―大丈夫? 子どもの食生活」を久留米市野中町の文化センター共同ホールで開いた。四百人の市民が、農民作家・山下惣一さんらと、子どもの食生活などをテーマに活発な論議を繰り広げた。
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【パネリスト】
▼山下 惣一さん (農民作家)
▼川原 ちづこさん(久留米市学校給食調理員)
▼鶴久 ちづ子さん(産直や「蔵肆(くらし)」店主)
▼野村 勝浩さん (農業、スローフード協会筑後平野会長)
▼佐藤 弘 (西日本新聞社編集委員)
【コーディネーター】
▼吉永 美佐子さん (楠病院理事、スローフード協会筑後平野副会長)
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●野村・親を変えるべき? 山下・体験の蓄積が力に 鶴久・料理一緒に作ろう 川原・悪循環で朝食抜き 佐藤・本丸の家庭が崩壊
―子どもを取り巻く状況をどうとらえているか。
▼野村 食も環境も原点に戻らなければと思う。今年、学校給食用に仲間とジャガイモ一トンを植え付けたが、地元で取れたものを食べるという地産地消、身(しん)土(ど)不(ふ)二(じ)の精神が見直されつつある。
▼鶴久 ある動物園で、理論上はカロリー、栄養素が整えられた食べ物をゴリラに与えたところ、うつ病になり、自ら毛を抜いてしまった。野生の場合、自然の中で十時間かけて食べ物を探し、食べるというリズムがある。それが崩れてしまったからだという。子育ても同じ。プロセスがないとだめだ。
▼川原 朝食抜きの小学生が多い。原因の一つが夜更かし。寝るのが遅れるから、翌朝起きられず、学校生活をきちんと送ることができないなど、悪循環が目立つ。また、昔は食料が豊富でなくおなかが減っていたこともあり、なんでも食べていた。今はウナギを給食に出すと、小骨をのどにひっかける子どもがいる。それが現状だ。
▼佐藤 子育ての本丸である家庭が崩壊しているという実態を踏まえて、対策を考えるべきだ。学校給食は年間百七十回ほどで、食事全体の回数からいえば、六分の一に過ぎないという声もあるが、成長途上にある子どもを大人と同列にすべきではない。朝食抜きの現状を見れば、学校給食はとても重要だ。
▼鶴久 母親たちが料理をできなくなっているのがネック。うちの店でもインスタント製品がよく売れる。ごはんとみそ汁を作ればいいのだが、自分自身は簡単な料理すらせずに、子どもにもさせない。
▼山下 農的幸福論と題した本に「僕らが育つころ、日本は貧しくて、僕たちは幸せだった」という記述があった。しかし、昔なら無条件に良かった、とは思わない。生活が変わったおかげで人は家から解放され、自分自身の人生を生きられるようになった。「昔は良かった」ではなく、今は今のやり方がある。
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▼会場 私は九州大で脳と心の研究をしているが、種々の問題点は家族形態の変化と密接なつながりがあると考える。かつての日本人は大家族で子どもは周囲に教えられて成長していった。だが、急速に核家族化が進み、教わるべきことを教わらずに脳が未成熟なまま育ったことが、恥を恥とも思わない、常識が常識として通用しない状況につながっている。教育や食も、そうした点を含めて見直さないと、日本の未来が危ない。
▼山下 現代の母親は、子どもを育てていく自信がない。大家族や地域の中で育てていたころは母親にかかる負担は少なかった。だから今は、地域の教育力に期待して、地域で育てようなどと言っているが、そんな地域なんてどこにもない。農村にだってない。
―子どもに生きる力を育(はぐく)む方法は。
▼野村 トマト嫌いの子どもでも、農作業を体験させると、「おじさんとこのトマトなら、食べられる」と言う。そんな感性を、家庭で引き出せればいいのだが。子どもを通じて、親を変えるべきなのかもしれない。
▼川原 以前は、家庭内の役割を家族が分担していた。でも今は、危ない、時間がない、散らかすと、包丁も持たせずに、子どもの体験を奪う社会になっている。仏壇がないから、マッチを擦れない子どもがいる。
▼鶴久 プロセスが大切。料理を一緒につくることを勧めたい。
▼会場(中学教諭) リンゴの皮を包丁などでむける中学生は半数以下だ。
▼山下 生きる力とは、体験の蓄積にほかならない。私の観察では昭和四十年代から十年間に生まれ、いま小学生の親となっている世代が最も弱い。何もやらされていないからだ。その反省に基づき、子どもたちに農業を体験させる「田んぼの学校」などの事業もある。次の世代は変わっていくと思う。
▼会場(一般) 私も農業を体験させて、作物のできる過程と農家の苦労を知らせることは大事だと思う。スローフード協会が行っている体験行事にも足を運びたい。孫もミニトマトを作ることで、感謝する心が生まれ、好き嫌いがなくなった。
▼会場(給食調理員) 食べることの大切さを、学校でも、家庭でも伝えたい。継続は力なりだ。
▼会場(保育士) 保育園で、朝食調査をすると、パンとコーヒー、牛乳が多い。母親たちが忙し過ぎて、作れないのがわかる。親たちの就業スタイルも併せて考えていかねばならない。
▼佐藤 今の社会に欠けているのは、暮らしからの視点だと思う。私が連載のタイトルを「食の安心安全」ではなく、「食卓の向こう側」にした理由は、その向こうに、子どもたちの未来、地域、福祉、教育などが見えてくるからだ。いずれ、就業のあり方についても取り組むつもりだ。
―子どもを取り巻く環境は厳しいが、前向きに取り組み、みんなで半歩ずつ前進していこう。
(2005/10/29 西日本新聞朝刊)

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