
治療薬について、研修医と意見交換する内さん(右)。「普段勤務する病院では基本的に1人。大学病院ではいい刺激を受けられる」
医師国家試験の女性合格者数は増加傾向で、近年は3割以上が女性だ。地方や私立医大では、学生の半数が女性というところも少なくない。
以前の大学病院なら、ただ待っていても自動的に卒業生が入った。だが04年の臨床研修制度改革で、研修医は出身大やその関連病院に限らず、自由に所属先を選択するようになった。多くの病院が“就職セミナー”を開き、医師を奪い合う。もし女性医師の多くが「この大学病院では育児もできない」と考えて他の病院を選んだら…?
「大学病院は立ちゆかなくなってしまいます」。九州大医学研究院の樗木(ちしゃき)晶子教授は力を込める。「でも逆手にとって、この状況を変える取り組みを、病院全体が変われるきっかけにしなくては」。大学病院は地域医療の拠点機能も担う。弱体化は絶対に避けなければならないからだ。
九大病院(福岡市)は07年、短時間勤務や研修プログラムなど、出産した女性医師や看護師のキャリア形成を支援する「女性医療人きらめきプロジェクト」を始めた。
背景には、育児を望む女性医師を取り巻く厳しい現実がある。
大学を6年、前期・後期研修を4年。スタートラインに着いた時点でいわゆる結婚適齢期を迎える。出産で職場を離れても補充人員はなく、しわ寄せは男性や独身の女性医師に来る。復帰しても、当直の免除などはない。
「『復帰するならフルタイムで戻れ、できないなら辞めろ』という世界」と同プロジェクトを担当する樗木教授。両立が困難なら大学病院を離れ、時間の融通が利く開業医院の非常勤医師になるか、あるいは辞めるかせざるを得ない。どんなに優秀な人材だろうと、そうなれば専門医認定や博士号取得など、キャリアアップへの道は遠のく。
現在、プロジェクトには医師と歯科医、看護師計18人が参加する。同病院の皮膚科医内小保理(うちさほり)さん(33)は、4歳と2歳の娘を子育て中。03年から約3年、医師の夫(36)が米国に勤務し、その間専業主婦だった。キャリアの断絶に不安を覚えたという。
「大学病院では難症例の研究や最新情報にも触れられる。少しでも続ける道があれば、将来状況が整ったとき、フルタイムに戻る道も開ける」
今は週4日開業医院に勤務し、うち1日は大学病院でも外来を担当する。仕事も、「手をつないで」とせがむ娘たちを寝かしつけるひとときも、内さんはあきらめたくはない。
同皮膚科の古江増隆教授は「病院内の一部には『甘いのでは』という反応もある」としながらも、「今うちの医局は6割が女性。勤務を柔軟にして助け合えるシステムにしないと、人がうまく回らない。今後、どの科も考えていかなくてはいけない問題」と受けとめる。
プロジェクトは3年間の期限付きで文科省が予算を出している。その先どうなるか、まだ決まっていない。樗木教授は「全体の労働環境がよくなれば、九大自体の評価も高まるはず。特定非営利活動法人(NPO法人)化するなどして事業を続けたい」と希望している。
これまで仕事と生活の両立支援は、少子化対策や働く人への福利厚生という構図の中で描かれてきた。だが高齢社会で働き盛り世代が先細っていく今、社会は働き方の見直しを迫られている。画一的でなく、多様な個性を持った人材が「活きる」ワークスタイルとはどんなものなのか、模索している現場を探訪し、考えていきたい。 (大矢和世)
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■ワーク・ライフ・バランス ここがポイント
●脱・長時間労働目指せ
▼女性医師バンクのコーディネーター、福岡県医師会理事の家守千鶴子医師
日本が世界でも最低レベルの医療費で、最高の医療を提供してきたひずみが出てきている。多くの病院が赤字に苦しみ、女性医師の働き方を支援する余裕がない。でも「女性医師問題」ではなく「医師問題」。根本には長時間労働の勤務実態があるからだ。関西のある病院が男性医師にアンケートを取り、「心配なこと」として1位が自分の健康、2位が医療ミスの不安、3位が家族という結果が出たそうだ。「長く働くことが偉い」という医療界の意識改革をしなくては、事態は改善しない。
これまで女性医師バンクで、いったん現場を離れた100人の再就業支援をしたが、ブランクのこともあり、医師問題の根本解決にはなっていない。今病院に勤める「続けたいけど続けられない」という人たちが辞めずに済むような支援が必要だ。 (談)
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=2009/01/25付 西日本新聞朝刊=