
「やたら編み」の手法でスツールを編み上げる大谷良三さん

花器やバッグ(奥)からスツール(手前)まで、作品は幅広い
「竹を割ったような性格、って言うでしょ」。竹は繊維に沿って真っすぐに割れる。転じてきっぱりとしてさわやかな性格を指す。「でも本当はね、くねくね曲がっているし、節はあるし」。牛小屋を改築した小さな作業小屋で、大谷良三さん(53)=大分県杵築市=は丸い真竹に向かった。一方を足の親指で挟み、竹割り包丁で割る。節に差し掛かるとほんの一瞬、速度を緩めた。竹に語りかけ、あやすように。
「材料ごしらえが全体の半分くらい。一番熟練がいるところ」。編むものに合わせて取り出す竹ひごは、髪の毛ほど細いこともある。使うのは、竹割り包丁と小さな刃物だけだ。「丸かったはずの竹から、自由自在にものが生まれる。今でも不思議な感じがするし、無限だとも思う」
大手化学メーカーのサラリーマンだった27歳のある朝、転機は突然訪れた。
出勤前、神奈川県内の自宅でテレビを見ていると、大分県別府市にある竹工芸の専門学校の様子が映し出された。「そんな世界は全く知らなくて。でも、ひらめいたし、ときめいた。これだ、と思った」。1年後に会社を辞めてその専門学校に入学、竹工芸職人の道を歩み出した。
「ひらめき」と「ときめき」を準備してくれたのは、ずっと抱き続けたものづくりへのあこがれだけではなかった。当時、宮崎県から神奈川県に転勤したばかり。「このまま都会で暮らすのか」「出世競争の中に、身を置き続けるのか」「組織の中では、自分のオリジナリティーが出せない」。心の底でうごめく迷いは、ときめきに突き動かされた瞬間に一掃された。
昨年秋、ドイツ人のデザイナー、ヨーガンレールさんのデザインで、竹を編んだスツールを作り上げた。これまで花器や盛りかごを手掛けてきた大谷さん。ヨーガンレールさんの申し出に「竹でスツールなんて、自分の発想にはなかった」。骨組みにステンレスを使って強度不足を補い、約5年かけて製品化した。
ふんわりとしなるスツールは、約80本の竹ひごが複雑に重なり合う「やたら編み」の手法を用いた。「手法の意味は『やたらめったら』。土台を組み立てたら、あとは自分の感性で空間を組み立てていく。二度と同じものは作れない」
アメリカでは10年程前、竹工芸がオブジェとしてもてはやされたが、大谷さんが求めるのは「用の美」。「こんなものがあったらいいな、というひらめきから始まる。使って楽しめるものじゃないと」。製作の中心は花器やバッグだ。
静かな作業小屋では、古い振り子時計が、かみしめるように時を刻んでいた。「古くから使われてきた竹工芸に、現代の道具としての美しさを見つけたい」
(畑中知子)
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▼おおや・りょうぞう 1956年宮崎県延岡市生まれ。大手化学メーカー退社後、28歳で竹工芸の道に入り、2001年に伝統工芸士に認定された。花かごや照明、バッグなど、実用品を中心に製作する。「やたら編みのスツール」は天然素材の生活雑貨を集めた、ヨーガンレールさんのブランド「ババグーリ」で取り扱っている。竹夢工房=0977(78)0005。
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