
支援者(手前)に当時の労働状況を説明する2人の中国人女性。「自分たちを守ろうと思った」と語る
王小紅さん(22)と李蘭霞さん(23)=ともに仮名=の表情は、硬く険しかった。「不公正に扱われたことは許せない」という。だが、「一人の人間として、オーナーを悪い人とは思っていない」とも繰り返した。
昨年9月、長崎・島原市の縫製工場で働く王さんら中国人女性5人が、島原労働基準監督署に労働基準法違反を申告。最低賃金を下回る350-400円で、月150時間程度の残業をさせられたと訴えた。「オーナー」とは、2人が働いた工場の社長である。
07年10月、社長夫妻は「私たちを日本のお父さん、お母さんと思ってね」と言って、2人を迎えてくれた。花見を一緒に楽しみ、県内の観光地にも連れて行ってもらった。そんな思い出も語ってくれた2人と別れ、島原市郊外へ向かった。住宅街の一角。縫製工場を示す看板さえない小さなプレハブは、明かりも付かず、静まり返っている。工場は昨年末、倒産していた。
再び2人の話に戻る。
ともに中国・江蘇省の農村の生まれで、縫製工場で働いていた。月収は約1200元(約1万6千円)。「日本に行けばもっと稼げる」と上海の人材派遣会社に誘われ、親や親せきに借りて仲介料約4万5千元(約61万円)を工面した。受け入れ先は島原地区の小規模な縫製工場15社でつくる協同組合だった。
1年間は月5万円、2年目に入ると約10万円の月給から寮費などを引いた約7万円を手にした。寮の庭でダイコンやカボチャを栽培して食費を切り詰め、2年間で王さんは120万円、李さんは170万円を中国の家族に送金した。
2人が問題視しているのは残業に対する報酬だ。
研修生側が時給ベースで不当性を訴えるのに対し、組合側は歩合制を主張する。「糸切りなどの作業1点に5円や10円を支払う内職で、時給の仕事ではない」と同組合の理事長は反論。主張は交わらず、王さんたちは民事訴訟の準備を進めている。
「こんな言葉は使いたくないが、今回は裏切られたという思いがあります」。強い言葉で心情を吐露する理事長は「少しでも手取りを増やしてほしいと思って内職を回したのに」と語る。組合が6年間で300人以上の中国人を受け入れてきたという自負もある。「私は実習生に恵まれてね。帰国してからも、毎週のように電話してますよ」。自ら経営する工場の事務所には、歴代の実習生が着物を着てほほ笑む写真や、実習生から贈られた記念品がところ狭しと飾られている。
一方、中国人の2人は今、「平静に仕事が続けられさえすればいいと思って、我慢していた」と不満を並べる。パスポートと通帳を会社が保管したこと、8畳に2段ベッド三つを入れて6人で暮らしたこと…。社長は否定するが、「トイレに行く時間を計られた」とも話す。
研修・実習生制度の本来の目的は途上国への技術移転にある。だが、「正直言えば、労働力としての認識が強い」と理事長は明かす。その認識は2人も共有している。「中国に帰っても、元の工場には戻らない。こっちでの仕事は、生かせそうにないから」
服飾産業の末端に位置する地方の下請け工場。そこで働いていた日本人と外国人の間でどんな思いが共有され、どんなズレや溝が生じていたのだろうか。「中国人のせいで倒産に追い込まれた」と憤る社長に対し、「(倒産で)払うべき給料を免れるのはおかしい」と主張する2人。距離はあまりにも遠い。
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▼外国人研修生・実習生制度
外国人研修生・実習生制度は、開発途上国への技術移転を目的に1993年にスタート。1年間の研修を経て、労働関係法が適用される2年間の技能実習に移行する。2008年に入国した研修生は約10万2000人で、約7割が中国籍。賃金未払いなどのトラブルが相次ぎ、国際研修協力機構(JITCO)によると、08年に時間外労働などの不正行為が確認されたのは452機関で、過去最多だった。7月に施行予定の改正入管法は在留資格を「技能実習」に統一、来日3カ月目から労働関係法が適用されるようになる。
=2010/01/07付 西日本新聞朝刊=