【リンジンとの距離 働く外国人を訪ねて】 <7完>記者ノート 「労働力」ではなく、「一人の人間」として
2010年07月18日 00:38
コンビニや居酒屋、郊外の工場や倉庫、地方の農地、さらには医療や介護といった専門職の現場でも、「働く外国人」の姿を見かけるようになった。並行して目につくようになったのが、摩擦やトラブルを報じるニュースだ。
昨年9月、日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づいて来日した看護師研修生が、「資格や業務の内容、賃金水準が事前説明と違う」と不満を募らせて途中帰国した。熊本県植木町では11月、中国人農業研修生が農家の夫婦を殺害後、自殺したとみられる事件が起きた。研修生や技能実習生に対する賃金未払いなどのトラブルは増え続け、2008年に全国で確認された時間外労働などの不正行為は、過去最多となっている(国際研修協力機構調査)。
取材した外国人労働者の来日理由は「日本文化が好き」「日本の先端技術を学びたい」「母国より高い報酬を求めて」など、さまざまだった。一方、彼らが感じる「日本への距離」を大きくする要因は大きく二つに絞られるようだ。
まず、労働に対する報酬、待遇に対する不満だ。
技術移転や国際的な人材交流を目的とした外国人研修制度は、受け入れ側にとって「低賃金労働者の確保」の手段になっている側面がある。外国人にとっても〈デカセギ〉の窓口であり、労使双方の利害は一致しているとの見方もある。
だが、先の国際研修協力機構調査のデータに明らかなように、受け入れ側の不正行為が社会問題となっている事実は無視できない。政府は指導・監督の強化などに乗り出したが、実効性を疑問視する声は根強い。
一見、堅実に見える外国語指導助手(ALT)や外国語学校講師の多くも、不安定な就労状況に置かれていた。九州で働くALTなどでつくる労働組合「福岡ゼネラルユニオン」のある幹部は、民間業者が小中学校などに派遣するALTについて、不利な条件で契約を結ばされている現状を指摘、「現場で日本人教諭から指示を受けており、偽装請負も疑われる。各自治体は直接雇用に切り替えるべきだ」と訴える。
もう一つの課題は、生活文化や慣習をめぐる「意識の距離」である。
取材では、その距離を縮めようという姿勢を打ち出している受け入れ先もあった。鹿児島県南さつま市の介護老人福祉施設は、1日5回の礼拝を欠かさないイスラム教徒であるインドネシア人看護福祉士候補生のために、施設内に礼拝場所を提供して、就業時間中の2回の祈りの時間を認めていた。
一方で、距離を詰めようと努力する外国人もいた。働きながら学ぶ韓国人留学生は、日本を知るためにできるだけ日本人学生に接するように心掛けていると語った。
育ってきた文化の違いは、容易に摩擦を生む。全国的には、騒音やゴミ出しをめぐって地域住民との間にトラブルが生じたケースが報告されている。
グローバリズムや少子化によって、今後も外国人労働者は増えていくだろう。労働者の権利保護、研修制度の拡充、生活面のサポート、さらには外国人労働者の子どもに対する教育環境の整備は不可欠となる。いずれも官民一体となって取り組むべき課題だ。
「リンジン」から「隣人」の関係へ。そんな時代に向けた歩みを、外国人労働者の労働問題を真剣に考えること、同時に文化や意識のズレを知ることから始めたい。私たちが受け入れているのは「労働力」ではなく、共に生きる「人間」なのだから。
=おわり
× ×
●こちら取材班
バブル経済が崩壊した後、1993―2005年の就職氷河期に社会に出て、今も厳しい生活を送っている人々がいます。フリーターや派遣社員といった非正規労働を渡り歩く人、引きこもる人、就職したものの、07年以降の景気悪化で失職した人、路上に暮らす人…。「就職氷河期の再来」ともいわれる今、ロストジェネレーション(ロスジェネ)と呼ばれる人々がどんな暮らしを送り、どんな壁に向き合っているのか。体験談や情報をお寄せください。
× ×
▼投稿・情報・ご意見は→西日本新聞文化部生活班
〒810─8721(住所不要)FAX 092(711)6243
電子メール bunka@nishinippon.co.jp
=2010/01/16付 西日本新聞朝刊=