
空気が澄んだ冬の日には、キンッとヒビの文様が入る音が聞こえることもある雪花ガラス。丸みを帯びたフォルムも青木さんの器の特徴だ

【右】ヒビの文様の中間層となる粒状の軟質ガラスをまぶす工程【左】耐熱ガラスのため、熱湯も使える。紅茶やハーブティーを入れるとヒビの文様がよく映える
かじかむような寒波の日、工房内に一歩入ると火照るような熱気に包まれた。ガス窯から成形された器が取り出され、素早く徐冷炉(じょれいろ)(冷却庫)へ移される。切り取られた破片を取り上げると、キンと音をたてて細かなヒビが一面に走った。
「ガラス屋がいちばん嫌う音ですが、これが“雪花(ゆきはな)”の文様なんです」。汗をぬぐう青木耕生さん(35)は、福岡市早良区の工房で、繊細な亀裂を内包した「雪花ガラス」の制作を続けている。
雪花ガラスは、硬質の耐熱ガラスと粉状の軟質ガラスを組み合わせる特殊な技法で作られる。「本来、性質の違うガラスを使うと欠損を招くため、タブーとされていました」
2種類のガラスの強度と個性の違いをあえて利用する技法だが、経験に基づいた素早い作業が必要だ。まず、溶解炉で溶けた硬質のガラス原料を巻き取り、軟質ガラスの粉をまぶして空気を吹き込む。オレンジ色に上気したガラスの玉が膨らむと、再び溶解炉で硬質ガラスをかけ、三層構造を作り出す。
一晩かけて冷却すると、室温に戻した瞬間、中間の軟質ガラスの層に雪の結晶のような繊細な亀裂が生まれる。ちょうど、ぱっと花が咲く様を連想させることから「雪花ガラス」と命名したという。
亀裂は硬質ガラスに挟み込まれた部分にあるので、表面は滑らか。東欧のガラス細工に起源を持ち、日本では青木さんの工房のほか、北海道と山口県の工房が技法を継承している。
青木さんは1975年、福岡県久留米市出身。大叔父は画家の青木繁だ。子どものころから川でガラスの破片を集めるのが好きだった。九州産業大芸術学部に在学中、福岡市東区にあったガラス会社「マルティグラス」でインターンシップを経験。「とろっとした感触、透明感に夢中になって。自分はガラスでいくしかないでしょ、と勝手な使命感にかられたんです」
卒業後、同社に入社したが、1年後に会社が解散。萩市のガラス会社に再就職し、雪花ガラスにつながる「内ひび貫入ガラス」に出合った。5年余りをその研究と制作に費やし、2005年、油山の中腹に工房を開いた。
「ガラスならではの透明感」にこだわる青木さんの器は、基本的に無色透明だ。半年から3年ほどかけて刻々と内部にヒビの文様が増え、器は表情を変えていく。「使う人の生活や飲食の好みによって、全く違うヒビが育ち、育てられることに、奥深さを感じてやめられないんです」
ガラス界のタブーであるヒビを楽しむ雪花ガラス。ガラス独特の冷たい緊張感から解き放たれたように、冬空の下でも温かさと柔らかさをもってきらめいていた。
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▼あおき・こうせい 1975年福岡県久留米市生まれ。九州産業大芸術学部卒。マルティグラス、萩ガラス工房を経て、2005年、福岡市早良区に「ガラス工房 生(せい)」を開く。同工房=092(861)8886。公式HP=http://hibi.shop-pro.jp/
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