
発明にこだわり新しいデザインを考える村上さん。棚には素材となるさまざまな革が並ぶ。
いつか何かを発明して、人々を驚かせたいと、幼いころの作文に書いたことを覚えているという。発明へのあこがれを抱いたまま大人になった村上雄一郎さん(40)=東京都台東区=は、一度は建築の世界に進みながら、革製品デザイナーへと転身した。自らのブランド「m+」(エムピウ)を設立し、今年で10年目。都内の小さな店舗兼工房で「発明」に値するような新しい形を日々考えている。
この財布を手にすると、村上さんがこだわる「発明」の形が伝わってくる。エムピウの看板商品「ミッレフォッリエ」は、ベロのような札ばさみ、箱型の小銭入れ、カード入れを一枚革でぐるりと巻き込み、金具で留めるユニークな形の財布だ。横からは層が重なって見えることから、イタリア語で「千枚の葉」と名づけた。イタリア製のタンニンなめし牛革は、使い込むほどに変化が楽しめる素材を厳選した。
「財布を作ろうと考えるのではなく、まず小銭とカードとお札を目の前にばらして置いて、これを一度に持ち歩くにはどうすればいいかなと考えた。どうしても財布っぽい形になるんだけど、どこか枝分かれするところを探して、新しい機能や形を成り立たせたかったんです」。金具部分にゴムバンドや面ファスナーを試すなど、数年間の試行錯誤を続け、どこにもない定番が生まれたのだ。
大学卒業後、建築設計会社に勤めた。設計し、模型を作るのは楽しかったが、現場では専門の職人に委ねるしかない。「最後まで自分で完結したい」という性格に合わなかった。会社帰りに思い立ち、革の材料や道具を買い、自宅で財布やバッグなどの小物を独学で作った。職場で見せると評判が良く、転身を企てたが既に20代後半。海外修行で勢いをつけようとイタリアへ。職業訓練校で1年間学び、ベネトンの子会社に勤めた。

一枚革で巻いて収納する財布「ミッレフォッリエ」が売れ筋商品だ
デザイナーから絵を渡され、型紙を取り、生地を裁断し、リュックやショルダーバッグの見本を作る部門だった。「どんなデザインも断らず、むりやり形にしてたら、デザイナーもおもしろがって、指名されるようになった。鍛えられました」。設計の経験が、立体的に考える力を育てていた。自信をもって帰国し、名字の頭文字を冠したブランドを興した。
財布、ペンケース、バッグなどすべての商品は、最初の原型のみを手掛け、生産は信頼する工場の職人に託している。オーダーメードの注文は断っている。「手作りにこだわり過ぎると値段が高くなって、気軽に買ってもらえない。ぼくが作ってるものはアートじゃないし、新しい使い方や機能を、まずは体感してほしいんです」。店を閉め、夜、工房の作業台でノートを広げ、新しい形を考える。時間がかかるし、簡単にはひらめかないけれど、発明に費やす時間が至福のときだ。
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▼むらかみ・ゆういちろう 1969年岩手県生まれ。早稲田大建築学科卒。2001年にエムピウ=03(3865)5286、HP=http://www.m-piu.com/=を設立。九州ではオルソープ天神ロフト店と福岡ルクル店(福岡県)、ララブルー(宮崎市)で販売。
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