
2人が経営する居酒屋で笑顔を見せる石松学さん(左)と成松建哉さん
午後1時半。ランチ客を見送り、石松学さん(41)と成松建哉(たつや)さん(45)は慌ただしく店じまいを始めた。それぞれ車に乗り込み、自宅へ向かう。
待っているのは買い物、洗濯、掃除、子どもの夕食の準備。午後5時からの夜営業まで、数時間が「父親」としての仕事だ。
「一日中ばたばたですよ。でも、父子家庭やけん、自分が何でもせんといかんでしょ」「そうそう、頑張らんとね」。睡眠不足による眠気を笑顔で吹き飛ばし、2人のシングルパパは店を後にした。
福岡市東区の住宅街にある飲食店「博多いしまつ」は、20席ほどのこぢんまりした店だ。昨年3月、2人が一念発起して手にした。
出会いはその4カ月前。ひとり親向けの就職説明会だった。会場を埋め尽くす母親の中に、男性は4人しかいなかった。
当時、石松さんは弁当販売の仕事をしていた。離婚して娘(10)を引き取ったのは6年前。自分が育てると決めた翌日、勤めていた居酒屋に「子どもを引き取ったけんもう来られん」と宣言して辞めた。料理人として早朝から未明まで握り締めていた包丁を置き、小さな手を引いて保育園へ。昼間しか働けないとホテルのランチなどアルバイトしかない。月三十数万円あった収入は、ひどいときは10万円足らずにがた落ち。「これじゃ食っていけん」と辞め、自宅で弁当を作り、昼のオフィス街に売りに出た。それも自転車操業が続いていた。
成松さんは就職活動中だった。3年前、離婚して娘(11)と息子(8)と暮らし始めたときは建設会社のサラリーマン。しかし家事と育児で残業ができなくなり、居づらくなって辞めた。「社長になれば子育てと両立できる」と自ら配管・電気工事の会社を起こす。それが1年半前、米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破たんという「リーマンショック」で、一気に仕事が消え、会社も消えた。
成松さんは面接を受けた二十数社、すべて落ちた。良い雰囲気も、履歴書の扶養家族の欄を見るとがらっと変わる。「あ、父子家庭ですか」「子どもが病気になったら来られんとでしょ」と話を打ち切られる。
生活も困窮する。児童扶養手当を申請しようにも、父子家庭には出ない。母子家庭の母親を雇用した際に企業に出る助成金も、父子家庭は対象外だ。男だからだろうか、「早く帰って子どもの世話でもしたら」と優しい言葉を掛けられたこともない。「世間は父子家庭に冷たい」と感じるようになった。
午後5時。看板に赤い明かりがともった。
年明けから不況の波は一層きつくなり、苦しい経営が続く。2人とも年収は百数十万円。しかし、この店が成功すれば、日々の暮らしにもがいているシングルパパたちのモデルになるんじゃないか。負けられん。「とにかく踏ん張って食っていかんと」。今夜ものれんを上げた。
離婚の増加により父子家庭が増えている。不景気のあおりも受け、苦境に陥っている父子家庭も多く、政府は2010年度予算案に児童扶養手当を父子家庭にも適用するための財源を盛り込むなど、ようやく支援策が具体化してきた。父子家庭の現状をリポートする。
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●父子家庭の数と年収
2005年の国勢調査によると父子家庭は約9万2千世帯(00年比5・6%増)で、離婚による割合が高まっている。一般世帯の0・2%に当たり、母子家庭約74万9千世帯と比べると少ない。父子家庭の平均年収は421万円、母子家庭は213万円(06年度全国母子世帯等調査)。最近の不況の影響もあり父子家庭も経済的に不安定さが増しているとみられる。
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