
お客さんの希望に即した形にするため、小刀で丹念に削っていく西原慎一郎さん。細かな作業が続くが「いったん始めると没頭して止まらなくなっちゃうんです」
ジャズが静かに流れる店内。窓の外には由布岳が広がる。父親の仕事の都合などで引っ越すこと、これまで17回。ここが一番、居心地の良さを感じるという。西原慎一郎さん(34)が大分県由布市湯布院町に、はしの販売店兼工房を構えて半年になる。
元業務用家具メーカーの営業マン。「売り手より作り手になりたくて」、7年前に湯布院町(当時)の観光協会が実施した木工職人の公募に応募、福岡から移り住んだ。食器を中心に、暮らしに密着した木工品を製作、販売する「アトリエときデザイン研究所」の研修生となった時、27歳だった。
器に比べ、はしにこだわる人は少ない。逆に興味がわいた。「はしは『これはお父さんの』って、使う人が決まってますよね。せっかくものづくりを手仕事でやるんだったら、使う人に合ったものをつくりたいって思ったのが最初ですね」

使う人の手の大きさに応じて長さは変わる。材料は地元・湯布院で育った木を使う
研修生時代は「イベントの手伝いばかりしよった」と振り返る。湯布院で30年以上の歴史を持つ映画祭や音楽祭などで、裏方として走り回ったおかげで、地域に根を下ろすことができた。独立から2年、「今では知り合いの知り合いから『木、切ったけん。取りにこんね』って連絡が入りますからね」と笑う。
集めた木片が材料になる。はし作りのために、新たに木を伐採することはない。間伐材や道路工事などでやむなく切り出した木ばかりを使う。「木を無駄なく、すべて使え」という師匠の教えを守る。
全体の8割以上は湯布院で育った木が占める。一番多いのは山桜。クヌギやクリのほか、熊本や福岡で間伐したミカンなどを使い、オーダーメードのほか、男性用の23センチから子ども用の14センチまで、6種類のはしを作る。どれも「口に運んだ後にすっと引ける感覚がほしい」と、はし先の滑らかさにこだわる。
はしは造形が単純な分、職人の個性が出にくいという。それでもはし職人という道を選んだ。「料理や器と比べて“端”に置かれていたはしをメーンにしてしまった。してしまったというより、メーンになってほしい」。だからオーダーメードに力を入れる。
店舗には長さや太さ、重さが異なる見本が並ぶ。一膳(ぜん)ずつ比べることで、理想のはしのイメージを探してもらう。あらためてはしと向き合うと、それまで意識していなかった細かなこだわりが浮かんでくるという。全体の長さ、持ち手の太さ、はし先の細さ、木材ごとの色合いや重さの違い…。使い手が見つけた理想型を忠実に形にしていく。
「自分のこだわりを押しつけるんじゃなくて、人のこだわりを形にしていくのが面白いんじゃないかなって。『このはし、使いやすいよな』っていう言葉が一番うれしい。職人冥利(みょうり)に尽きるというか」
一番好きな木は「あなたにほほ笑む」という花言葉を持つ山桜。使う人の食卓が笑顔であふれるように、今日も工房で、黙々と削る。
× ×
▼にしはら・しんいちろう 1976年、北九州市生まれ。2009年8月、同町内に自身の店舗兼工房「箸(はし)屋一膳(ぜん)」を開く。はしの手作り体験も実施している。同店=0977(84)4108。
× ×
▼投稿・情報・ご意見は→西日本新聞文化部生活班
〒810─8721(住所不要)
FAX 092(711)6243
電子メール bunka@nishinippon.co.jp
=2010/02/14付 西日本新聞朝刊=