
「刺しゅうは天職。後進も育てながら、刺し続けていきたい」と話す大塚あや子さん
幼いころ、母に教えてもらった刺しゅうが、いつの間にか大切な仕事になった。刺しゅう作家、大塚あや子さん(59)=福岡県芦屋町出身=は、主宰する教室やNHKの番組、著書を通じて刺しゅうの魅力を紹介し、第一人者として活躍している。伝統的な技法を踏まえながら新しい感覚を大胆に取り入れ、新しい世界を紡いできた。「リッチな奥さまや、か弱い女性のマイナーな趣味、という刺しゅうのイメージを覆したいんです。もっと楽しくて、美しくて、素晴らしい世界なんです」
東京・自由が丘にある刺しゅう教室「ECRU(エクル)」は、大塚さんが5年前に開いた。自然光がたっぷり入る教室には、スイスやフランス、ドイツなど世界各国のカラフルな刺しゅう糸が並び、とにかく明るくてやわらかい空間だ。

立体的に刺していく手法「スタンプワーク」を使った作品
「リラックスして、楽しみながら刺してほしいんです。気持ちがぎすぎすしていれば、糸がきつくなる。気持ちは作品にそのままあらわれるから」。1クラス約20人を直接指導する教室には、首都圏を中心に全国から約300人が通う。常に150人が待機するほどの人気ぶりだ。教室はドイツのシュヴァルム刺しゅうを中心にした華麗な「白糸刺しゅう」、17世紀の英国で流行した半立体に刺す手法「スタンプワーク」など4種類。「刺しゅうは手法が多くて、つい先を急いでしまう人が多いけれど、大切なのは基礎を丁寧に刺すこと。基礎がないと、新しい世界へ『飛ぶ』こともできないから」と話す。
技術を教える背中で、自立した女性としての姿も伝えたい。「若い人からみて、これも魅力ある仕事の一つだと見せたい。後進の育成も私の役割です」
佐世保での少女時代。恵まれた家庭で多くのけいこ事を習ったが、刺しゅう家の母に習う時間が一番好きだった。趣味として刺しゅうは続けながら、ずっとあこがれていた「スチュワーデス」になる夢をかなえ、5年間、世界の空を飛んだ。結婚退職し、出産。「年子で男の子が生まれたんです。年を取ったとき、息子にすがるような母親になりたくなかったから、私も何かを持ってなきゃと」考えて、刺しゅうを本格的に再開し、講師の資格を取得した。作品がメディアで紹介され始め、50歳を過ぎて仕事が急増した。
今年は5月に還暦を迎える節目の年。秋に米国・ニューヨークで初の個展を開く。「最近、考えたデザインと完成した作品がぴたっと一致して、思い描いた作品が出来てくるようになった」。教室の名前『エクル』は、糸の色から名づけた。それはまだ何色にも染まっていない生成りの色。何色にでも染まれる生成りのような自由さと清新さを常に失わないでいたい。そう思いながら、大塚さんは毎日、針を刺している。
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▼おおつか・あやこ 1950年福岡県芦屋町生まれ、長崎県佐世保市で育つ。同県立佐世保北高卒。大学卒業後、KLMオランダ航空の客室乗務員として勤務。結婚退職後、2005年に刺しゅう教室「ECRU」=http://www.studio-ecru.com/=を設立した。
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