
保育所「トントン」で子どもたちとおやつの時間を過ごす松尾伸也さん
長崎市の24時間保育所「トントン」。お迎えに来たお父さんは「こらー」と子どもを追いかけ、子どもはうれしそうに逃げ回る。そんな姿を見るにつけ、所長の松尾伸也さん(36)は「お父さんたちは自然に子どもと同じ目線になれる」という気がする。
松尾さんはシングルパパ。「困っている親子を助けたい」と3年前、トントンを開設した。手元に子どもを置いて仕事ができる、という利点もあった。
離婚して2人の兄妹、隼人君(11)とせなちゃん(5)の3人暮らしになったのは4年前。保育所に預けながら建設会社に勤めていたが、どうしても午後7時のお迎えに間に合わないことがある。保育士に嫌な顔をされるたびに、ストレスがたまっていった。
急いで帰宅したものの、夕食が午後9時になったことがあった。1歳だったせなちゃんが泣き叫ぶのにいらいらして、一生懸命なだめる隼人君に「うるさい」と怒鳴ってしまった。完全な八つ当たり。最低な父親。やっとできたおかずに隼人君は笑った。「お父さん、おいしかばい。ありがとう」。自分は最高の息子と娘に恵まれているのに。父親として絶対に2人を幸せにする、と涙をぬぐった。
松尾さんにとって、「父親」は怖い存在だった。造船会社でボイラーを作っていた父は寡黙で、遊んだ記憶もあまりない。お菓子やラーメンを食べさせてくれた記憶があるくらいだ。
そんな父の知らない一面に触れたのはつい最近だった。松尾さんが4歳で心臓手術をしたとき、血液が足りずに同僚や友人を探し回ったことを、母から聞いた。食べ物をくれたのも、自分が子どものころ食べ物に困っていたからだ、と。父親なりの愛情をいま自分が子育てをして理解できる。
ある日、テレビを見ていたら、ポケットがたくさん付いたベストを「イクメンにぴったり」と紹介していた。最近、耳にするイクメンとは「育児するかっこいい父親」のこと。「何ば言いおっとや」と違和感がある。子どもが大好きで子どもに体当たりする。それでいいんじゃないのか。
シングルパパの宮原礼智さん(38)=福岡市博多区=は4月、父親3人でNPO法人「ファザーリング・ジャパン」(東京)の九州支部を設立する。同法人は「ファザーリング」を「父親であることを楽しむこと」とし、講座や「パパ検定」などに取り組んでいる。
いまや仕事と3人の子育てをこなす宮原さんも「子どもとの接し方が分からなかった」という。家族のために稼いでくればいい。自分の父親もそうだった。それも一つの生き方。しかし、子どもたちと接するうちに、父親であることが幸せだと感じるようになった。
自分たちの活動を、父親たちが育児にかかわるきっかけにしてほしい。ただ、中小企業が多い九州と、育児支援に前向きな大企業が集中する東京とは状況が異なる。「九州男児」と言われるように、男性の気質も多少違うだろう。「この地域で何ができるか考えていきたい」。父親たちが育児に「参加」するのではなく、当事者になるように。
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●父親の育児支援の動き
少子化や共働き家庭の増加を背景に、父親の育児支援の動きは高まっている。2005年には男性の育休取得を後押しする次世代育成支援対策推進法(次世代法)が全面施行。06年にはNPO法人ファザーリング・ジャパン(東京)が発足。07年には官民挙げて「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と行動指針が策定され、社会全体で取り組んでいくことが確認された。
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=2010/03/06付 西日本新聞朝刊=