
フィリピン・マニラ近くにあるJFCネットワークの事務所でのミーティング
フィリピン人女性と日本人男性の間に生まれたJFC(ジャパニーズ・フィリピーノ・チルドレン)に取材で会うたびに、「父親はどんな人物なのだろう」という疑問が浮かんだ。
答えの一端が、母子の支援を行っている「JFCネットワーク」(東京)の伊藤里枝子事務局長の話で垣間見えた。
会は1998年、フィリピンのマニラ近くに事務所を開設した。相談者の約75%がフィリピン在住の女性。支援の多くは父親捜しから始まる。男性が残した名刺や携帯電話の番号などを手掛かりに現住所を捜す。2008年末までに受けた相談約960件のうち、約8割で父親に行き着いた。会から認知などを求める手紙を3回出す。3通目には「連絡がなければ、法的手段に訴える」ことを明記する。
父親の反応はどうか。
「『そんな女性は知らない』としらを切る男性はごくわずか」と伊藤さん。だが、交渉や訴訟を経て、養育費支払いや認知に応じたのは「2割に満たない」という。「アジア人女性に対する蔑視(べっし)がまったくないとは言えないが、事情はケースごとに異なる」。バブル崩壊後、リストラや倒産に遭った男性がそれまで続けていた送金を止めたケースもあったという。
養育費支払いや認知を拒否された場合、解決を司法の場に求める女性もいる。JFCをめぐる調停や審判、訴訟は15年ほど前から、各地で相次いでいる。
フィリピンに暮らす母子の渡航費用が大きな壁になっていたが、来日せず証拠書類と弁護士のみの出廷が認められるようになった。04年の人事訴訟法施行で、原告が日本に住所を持たない場合、すべて東京地裁に移送されていた訴訟が、父親の住所地で行えるようにもなった。弁護士費用も、日弁連の法律援助制度の利用が可能だ。
両親が未婚のJFCが日本国籍を求めた訴訟を契機に、昨年は国籍法が改正され、婚外子でも出生後の認知で国籍取得が可能になった。改正後、JFCネットワークには父親からも「子どもに国籍を取らせたい」といった相談が寄せられるようになった。
残された課題もある。その一つが国籍留保の期間だ。両親が結婚していても、海外で生まれた子どもについては、生後3カ月以内に国籍留保の届け出をしないと日本国籍は取得できない。4人のJFCが2月、期間の短さの違憲性を問う訴訟を東京地裁に起こした。伊藤さんは「海外と比べて3カ月は短い。国籍法の改正が必要」と指摘する。
エンターテイナーとして来日するフィリピン人女性が増加した1980年代以降に生まれたJFCが就労世代になり、届け出による国籍取得の期限である20歳を迎えようとしている。支援を始めた当初は、母親からの相談がほとんどだったが、「ここ数年、子ども自身からの訴えが増えた」と伊藤さんは語る。
「子どもが申し立てる訴訟は『お父さんに会いたい』という精神的な意味合いも強い」。だが、認知を得ても「法廷で父親と会ってそれっきり。関係修復できないことも多い」という。
ビザ発給の厳格化で、エンターテイナーの来日が激減し「今後、かつてのように多くのJFCが生まれることはない」と伊藤さんは予測するが、多くのJFCは今も問題を抱えながら生きている。日比両国ともに公的な実態調査や支援策はない。伊藤さんは「市民団体の力では、大規模な調査は難しい。女性たちを受け入れ続けてきたことには国にも責任がある。公的な実態調査や支援が必要」と訴えている。
=おわり
=2010/03/11付 西日本新聞朝刊=