
松尾伸也さんとせなちゃんの手。しっかり握って一歩一歩進みたい
娘のせなちゃん(5)がまじめな顔でつぶやいた。「お母さんにトウモロコシを買って持っていかな」。長崎市のシングルパパ、松尾伸也さん(36)は意味が分からなかった。
人気アニメ「となりのトトロ」で、主人公の女の子が、入院している母親にトウモロコシを持っていく場面がある。そのことを後で知って、はっとした。離婚する直前、妻が交通事故で入院していた。当時、せなちゃんは生後5カ月。記憶があるかどうかは分からないが、母親の入院と別れがセットになって胸に刻まれているのだろうか。
自分はひとり親として頑張っているつもりでも、娘の心には確かに「母親」が存在している。そして現実の不在。笑顔が照らす心の陰は、計り知れないほど深いと知った。
父子家庭、母子家庭の問題を語るとき、私たちは子どもたちの心にどこまで目を向けてきただろうか。
ひとり親や支援者でつくる「ふしぼしねっと」(福岡市)は4月、同市内で子どもの声を聞くイベントを開く。がむしゃらに生きてきたが、子どもたちはどう思っているのか。あらためて耳を傾けたいという。
企画の中心メンバー、原田真帆さん(38)=長崎県東彼杵町=は、両親の離婚で自らも母子、父子家庭で育った。朝から晩まで働く母親を見て「迷惑は掛けられない」と常に思っていた。金銭的に遠慮もあった。それでも娘に肩身の狭い思いをさせない、頑張り屋の母。思春期なら反抗もするだろうが「迷惑掛けてごめんね」といつも謝る母に、反発なんてできなかった。
ひとり親が頑張り過ぎず、「大変だけど毎日楽しい」と思える社会になってほしい。もし今、子どもだったら。原田さんは「お母さんが幸せなのが、私にとって一番幸せ」と伝えたい。
連載に登場したシングルパパたちの共通点は、ひとり親になった途端、社会から孤立すると感じたことだ。公的支援の欠如だけではない。少数だからか、男性は強いと思われているからか。男性の育児支援の動きはあるが、父子家庭への風当たりはまだまだ強い。「1人で子育てしなければ」と何もかも背負い込んでしまう。
さらに父子家庭の特徴に、死別の割合が高いことがある。母子家庭の9・7%に対し、父子家庭は22・1%(2006年度全国母子世帯等調査)。大切な人の喪失感が、父親たちの孤立感に拍車を掛ける。
そんな父親たちも、子どもたちと暮らしていくうちにさまざまな支えを得ていくようだ。子どもの友人の保護者、親せき、地域の人たち。松尾さんは「こがん周りに人がおったのか」と気付いたという。
子どもは社会の中で育つ。親が2人でも1人でも、それが男性でも女性でも。そのことをお父さんたちに知ってほしい。そして、親子のかたちがどうであれ、親子を温かく見守り、大きな手を差し伸べられる社会でありたい。
=おわり
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●子どもの気持ち
ひとり親家庭の子どもの気持ちを発信する動きが徐々に表れている。1月には子ども13人へのインタビュー集「お父さんなんかいなくても、全然大丈夫。」(泰文堂)が発刊。「離婚家庭の子どもの気持ち」などの出版があるNPO法人Wink(東京)は「アンファン宣言」として、子どもの視点に立った講演会や出版を計画している。
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