西日本新聞

生活TOPICS ~西日本新聞紙面・生活面から~

【「保育」どこいく 制度改革を考える】<1>幼保一体化 増えぬ「認定こども園」

2010年12月02日 23:32
終礼前、電車ごっこで遊ぶ「あかさかルンビニー園」の子どもたち
終礼前、電車ごっこで遊ぶ「あかさかルンビニー園」の子どもたち
 電車ごっこで盛り上がる子どもたちに、先生が声を掛けた。「さあ、バスさんは準備しましょう」。午後3時、佐賀県有田町にあるあかさかルンビニー園。ここは「認定こども園」だ。

 「バスさん」は、園のバスで帰る「幼稚園児」のこと。終礼が終わるとカバンを持って玄関へ走る。同じ教室に残った「保育園児」や「預かり保育の契約をしている幼稚園児」は園庭に駆けだした。それまで、園児たちの見分けはまったくつかない。王寺直子園長(52)は「帰る時間が違うだけで、園児同士の仕切りはありません」と強調する。

 1日の流れはこうだ。午前7時すぎから登園。同10時―午後3時の「コアタイム」に年齢別クラスで工作や音楽を楽しみ、給食を取る。終礼後、保育園児と預かり保育の幼稚園児は自由遊び。クラスをばらし、異年齢の子が一緒に遊ぶ。

 王寺園長は認定こども園の長所を「親の就労状況で区別するのではなく、発達段階に応じてそれぞれの子と向き合える」点に思う。

 政府は保育制度改革の中で、新たな幼保一体化施設「こども園(仮称)」の設置を打ち出した。「すべての子に質の高い幼児教育・保育を保障するため」とする。その際、2006年に導入した認定こども園がモデルになるとされる。

 しかし、12年度までに全国で2千件の設置を目指す認定こども園は、今年4月時点で532件。広がらない理由を、成松幼稚園(北九州市八幡西区)の成松克江(かつえ)園長(64)は「一体化の理念には賛同しても、具体的な部分で違いが多く、制度が複雑」と推測する。

 成松幼稚園も昨年4月、認定こども園になった。0―2歳は5千万円以上を投じて園庭に新築した別棟で預かる。調理室も備えた。雨の日はぬれたりして、園舎間の移動にひと苦労。なのに補助金は、幼稚園を経営する「学校法人」の部分でしか受け取れなかった。

 職員にも当初は戸惑いがあった。ほとんどが保育士の有資格者だが、実務経験はない。「基本的生活習慣ができて3歳から入ってくる幼稚園児とは、別の対応が必要」と感じ、職員全員で専門書を読みあさった。

 働く女性の増加と少子化は幼稚園に打撃を与えた。1978年に250万人だった利用者は昨年、163万人にまで激減。一方で保育所の利用者は増え、2000年に逆転。幼保一体化の議論を後押しした。

 成松幼稚園も12年前、定員160人に対し、84人に減った。以後、周辺の幼稚園が次々と閉鎖する中、サービスを充実させ、現在148人まで回復した。成松園長は認定こども園になった決断を「設備費の負担は重いが、園児確保のために必要でした」と振り返る。

 一方で、幼稚園と保育所は「20年前から近づきつつあった」という。預かり保育の需要が高まってきた幼稚園。保育所も教育的なプログラムを取り入れるようになってきた。

 補助金、職員の配置、調理室の設置義務…。こうした基準の違いを、どう一本化するのか。子どもにとって十分な水準になるのか。白梅学園短大の近藤幹生准教授(保育学)は「すべてをこども園にしようというのは乱暴な議論で、最低基準に満たない施設が出てくる恐れがある。地域のニーズにあった保育を市町村が財政的に支援する仕組みが必要」と警鐘を鳴らす。

 ●福祉か、サービスか 連載にあたって

 保育制度が大きく変わろうとしている。対象が「保育に欠ける子」から「すべての子」に拡大され、社会全体で支える仕組みが新たに作られようとしている。どう変わるのか、子どもの育ちに問題はないのか。政府の「子ども・子育て新システム検討会議」が今月中にも基本的方向をまとめるのに合わせ、保育の現場を取材しながら考えたい。

 現在議論されている制度改革は、これまでの保育を根本から覆すものだ。そもそも保育は、福祉なのか、サービスなのか。

 戦後間もない1947年に児童福祉法が制定されて以来、一貫して「福祉」だった。自治体は「保育に欠ける子」を保育所で保育する責任を負ってきた。

 今回の改革は、この要件を撤廃し「すべての子に質の高い幼児教育・保育を保障する」という。子育て関連の大きな“財布”(基金)を作り、国や企業、利用者から集めたお金を地方に配る。地方は実情に応じ、多様な保育サービスにそのお金を使う。企業の参入も促進する。背景には「国から地方へ」「官から民へ」という地方分権、規制緩和の流れがある。

 これは、介護保険法(2000年施行)、障害者自立支援法(06年施行)と続く社会福祉改革の同一線上にある。保育も、利用者がサービスを選択し事業所と直接契約する方向へ-。社会福祉の3本柱である「高齢者」「障害者」「子ども」を取り巻く環境が、大きく変わりつつある。

 今回の改革には「子どもを一体的に見ることができる」「新たな雇用が生まれる」「サービスが向上する」と歓迎の声がある一方、「地方によって格差が広がる」「不十分な保育所の環境がさらに悪化する」など懸念も根強い。

 政府は新制度に向けた法案を来年の通常国会に提出し、3年後(13年度)の施行を目指す。しかし、こうした議論の内容はあまり知られていない。新企画「保育どこいく」を、議論のきっかけにしてほしい。

    ×      ×

 ▼幼保一体化

 幼稚園と保育所を一本化すること。幼稚園は文部科学省が所管し、「幼稚園教育要領」に基づき3歳以上の子を標準で1日4時間教育。保育所は厚生労働省の所管で「保育所保育指針」に基づき、親が就労や病気などのため「保育に欠ける子」を保育する。改革では要領と指針を統合し、「こども指針」(仮称)を創設。幼児教育と保育をともに提供する「こども園」(同)を設置するとしている。すべての子どもにサービスを行き渡らせるのが目的だが、働く親の増加で待機児童が増える保育所と、幼稚園とのアンバランスな現状を解消する狙いもある。

    ×      ×

 ▼投稿・情報・ご意見は→西日本新聞文化部生活班
〒810─8721(住所不要)
FAX 092(711)6243
電子メール bunka@nishinippon.co.jp


=2010/06/03付 西日本新聞朝刊=
    【PR】

生活TOPICS 過去記事一覧


おすすめ情報【PR】
生活TOPICS ~本紙生活面から
生活情報トピックス 生活情報トピックス
おすすめ情報【PR】
東日本大震災特設ページ
西日本新聞公式アプリ
天気・交通情報
  • 2月 2012年
  • 23
  • 木曜日
  • 道路交通情報
  • 九州のりものinfo.com
福岡 14℃
/
長崎 16℃
/
佐賀 17℃
/
宮崎 21℃
/
大分 14℃
/
鹿児島 20℃
/
熊本 16℃
/
山口 15℃
/
記事写真ご利用はこちら
アクセスランキング
  1. 「盲導犬虐待」ネット暴走 長崎の男...写真付記事
  2. 福岡大で合格発表 11428人に“春”写真付記事
  3. 自立支援法 厚労省改正案再検討を
  4. 元少年死刑確定 市民も重い命題背負った
  5. 新大牟田など苦戦続く 九州新幹線1...写真付記事
47CLUB探検隊

「もつ鍋万十屋」さんに行ってきました!

まだまだ寒い日が続きますが皆さまはお元気ですか? 寒い日は『鍋物』がよりいっそう美味しいと感じます。 今日は博多の名店「...

>> 記事を読む

>> 47CLUB探検隊へ