
空き地にある野菜直売店は、商業ビルの谷間で存在感を発揮している
福岡市の副都心、東区香椎。学生街の顔も持ち、往時は市外からの買い物客も多かった。今、その中心地、JR香椎駅前で土地区画整理事業が本格化しようとしている。
8年前に国の認可を受けて福岡市が着工した香椎副都心整備事業。昨年度までに土地の先行取得を終え、移転させる店舗などを決めた。今年5月、福岡東支局に着任して間もなく、駅から国道3号に続く通りを歩くと、事業進展に伴って生まれた空き地が目立ち、気になった。
それは歯が抜けた歯茎のように思えた。通りに1つ空き地ができると、人の流れが途切れ、周りの店の客足も遠のく。経済紙記者をしていた時代から、商店街の空き地やシャッターを下ろした空き店舗は「負の象徴」ととらえていた。
香椎での商店街取材を通じて、これまでのイメージはがらりと変わった。空き地や空き店舗も、商店街再生の拠点になり得るのだ。
× ×
「何もないから新しいことができる。ここから活気を生み出そう」。それが商店街メンバーの合言葉だった。
空き地ができるたびに商店主らは集まり、活用方法を話し合った。空き地にプレハブやテントを建て、短期間でも出店する意欲がある若手を募ってはどうか。「客を奪い合い共倒れになったらどうする」。当初は新規出店への抵抗もあった。
回を重ねるうち前向きな議論が広がっていった。「ちょうどあの辺りに雑貨店がほしかった」「ビルの間に平屋ができれば風景に多様性が生まれる」
やがて登場したのは、手作り風アクセサリーを扱う雑貨店、店内いっぱいに商品をつり下げた下着店…。これまでになかった出店スタイルが、街に意外なにぎわいをもたらした。
ビルの谷間に立つ野菜直売店は今、プレハブから客があふれている。客の目を飽きさせまいと、毎日、あるいは週単位で店を入れ替える空き地もあり、年に100店舗以上が出店する。
× ×
親会社の倒産で閉店したスーパーの再チャレンジにも驚かされた。解雇された店員らが、地元企業の協力を得て新たな運営会社を設立。商店街も再開に向けた地権者との話し合いを後押しした。8月の開店を商店街は記念セールで盛り上げた。
ただ、区画整理事業が進めば、スーパーは移転を迫られるおそれがある。それでもスーパーの地元再建にこだわった熱い思いは、米村潤店長(33)の「自分を育ててくれた街に恩返ししたい」との言葉に集約されている。
西鉄香椎駅前に、松本清張の小説「点と線」ゆかりの桜の老木がたたずむ。近くで写真店を営む相野裕治さん(57)は「どんなに寒い冬にも耐え、花を咲かせ続けるこの木は地域のシンボルです」と語る。
20日夜、区画整理事業後を見据え、商店街を核にしたまちづくりを考える協議会が発足し、商店主や住民代表らが率直な意見を出し合った。点から始まった商店街再生の胎動。やがて線となり、面へと広がって花開くと信じている。
× ×
▼福岡東支局 向井 大豪(29)
佐賀県出身。2004年入社。地域報道センター、北九州支社を経て、今年5月から福岡東支局。
=2007/10/21付 西日本新聞朝刊=
