「知事がね、ここで地鶏を放し飼いしようというんですよ。エサやりは私がせんといかん」
宮崎県庁の前庭に、見学者の笑いがはじけた。引率するのは県観光・リゾート課の松木孝仁さん(32)。多い日は100人以上を案内する。東国原英夫知事の人気にあやかった県庁「ツアー」客は、9カ月で約29万人。県内10番目の観光地、宮崎神宮に迫る集客力だ。
■自信取り戻す
松木さんは知事と同じくタレント出身。大学時代は吉本興業に所属し、舞台で漫才を演じた。卒業後、生活の安定を求めて古里で県庁入り。そこで芸人以上の「浮き沈み」を経験した。
2006年12月に官製談合・汚職事件で安藤忠恕(ただひろ)前知事が逮捕されたときは経済産業省出向中。トップの不正が連日報道され、県庁組織の評判も地に落ちた。「この先どうなるのか」。宮崎に帰るのが不安になった。
事態は東国原知事の登場で一変した。昨年4月、1年ぶりの県庁は見学者であふれ、異例のツアーが始まった。全員知事目当て。「1回は会いたいから、また来る」。そんな客の反応を、松木さんは驚きながら喜ぶ。
「知事が県民に自信と誇りを取り戻させてくれた」
■売り上げ3倍
東国原人気は、遠く宮崎県最奥部の観光地、高千穂町にも及ぶ。
「紅葉シーズンの10、11月は連日満室で大わらわ。冬になっても客足は落ちない」。佐藤哲章さん(59)が経営する老舗旅館が突然にぎわいだしたのは昨年9月。知事がテレビで町の神社を紹介した直後だった。
「東国原さんが知事選前にお参りした神社があると聞いて来ました」。3年前の台風で高千穂鉄道が運行停止となり、減り続けていた客足が復活した。昨年の町の観光客は、前年比で10万人以上増えた。
高千穂に限らず、沈滞していた県内の観光地は軒並み好転。宮崎市内の主要ホテル宿泊数は、7年ぶりに120万人台を回復した。地鶏にマンゴー。知事がPRすると県産品も売れる。県物産館の昨年の売上高は10億円を突破、前年の約3倍に達した。
■陰りは見えず
ブームに便乗する悪質商法も現れた。ウナギや地鶏を偽装販売する業者や百貨店が、東国原知事の似顔絵イラストを無断使用。似顔絵は風俗広告にも使われ、「イメージダウンにつながる」と県議会で問題になった。
それでも人気に陰りは見えない。地元紙が昨年12月に実施した県民意識調査(1000人回答)によると、支持率は93.7%。知事の徴兵制容認発言が波紋を呼び、280件の意見が県に寄せられたが、4割は東国原支持だった。
失言さえ話題になり、注目を集める東国原知事。「県民は『次は何』の感覚で、知事が主役の『劇場』を楽しんでいる」。自民県議の1人はブームの背景をこう説くが、「いつまでも続くわけはない」とも思う。
「東国原景気」に沸く高千穂町では今、民間の鉄道復活計画が進む。佐藤さんはその準備会社取締役に就いた。「私らの力でお客が増えたわけではない。浮かれている場合ではない」。ブームの追い風があるうちに、最大限活用するつもりだ。
◇
東国原氏が出直し宮崎県知事選で初当選して21日で1年。談合体質や県庁の裏金問題に切り込み、長らく「官」出身者が知事の座を占めた県政を身近にした。奔流のような宮崎ブームを起こした東国原県政二年目の現状と課題を追う。
=2008/01/22付 西日本新聞朝刊=
宮崎県庁の前庭に、見学者の笑いがはじけた。引率するのは県観光・リゾート課の松木孝仁さん(32)。多い日は100人以上を案内する。東国原英夫知事の人気にあやかった県庁「ツアー」客は、9カ月で約29万人。県内10番目の観光地、宮崎神宮に迫る集客力だ。
■自信取り戻す
松木さんは知事と同じくタレント出身。大学時代は吉本興業に所属し、舞台で漫才を演じた。卒業後、生活の安定を求めて古里で県庁入り。そこで芸人以上の「浮き沈み」を経験した。
2006年12月に官製談合・汚職事件で安藤忠恕(ただひろ)前知事が逮捕されたときは経済産業省出向中。トップの不正が連日報道され、県庁組織の評判も地に落ちた。「この先どうなるのか」。宮崎に帰るのが不安になった。
事態は東国原知事の登場で一変した。昨年4月、1年ぶりの県庁は見学者であふれ、異例のツアーが始まった。全員知事目当て。「1回は会いたいから、また来る」。そんな客の反応を、松木さんは驚きながら喜ぶ。
「知事が県民に自信と誇りを取り戻させてくれた」
■売り上げ3倍
東国原人気は、遠く宮崎県最奥部の観光地、高千穂町にも及ぶ。
「紅葉シーズンの10、11月は連日満室で大わらわ。冬になっても客足は落ちない」。佐藤哲章さん(59)が経営する老舗旅館が突然にぎわいだしたのは昨年9月。知事がテレビで町の神社を紹介した直後だった。
「東国原さんが知事選前にお参りした神社があると聞いて来ました」。3年前の台風で高千穂鉄道が運行停止となり、減り続けていた客足が復活した。昨年の町の観光客は、前年比で10万人以上増えた。
高千穂に限らず、沈滞していた県内の観光地は軒並み好転。宮崎市内の主要ホテル宿泊数は、7年ぶりに120万人台を回復した。地鶏にマンゴー。知事がPRすると県産品も売れる。県物産館の昨年の売上高は10億円を突破、前年の約3倍に達した。
■陰りは見えず
ブームに便乗する悪質商法も現れた。ウナギや地鶏を偽装販売する業者や百貨店が、東国原知事の似顔絵イラストを無断使用。似顔絵は風俗広告にも使われ、「イメージダウンにつながる」と県議会で問題になった。
それでも人気に陰りは見えない。地元紙が昨年12月に実施した県民意識調査(1000人回答)によると、支持率は93.7%。知事の徴兵制容認発言が波紋を呼び、280件の意見が県に寄せられたが、4割は東国原支持だった。
失言さえ話題になり、注目を集める東国原知事。「県民は『次は何』の感覚で、知事が主役の『劇場』を楽しんでいる」。自民県議の1人はブームの背景をこう説くが、「いつまでも続くわけはない」とも思う。
「東国原景気」に沸く高千穂町では今、民間の鉄道復活計画が進む。佐藤さんはその準備会社取締役に就いた。「私らの力でお客が増えたわけではない。浮かれている場合ではない」。ブームの追い風があるうちに、最大限活用するつもりだ。
◇
東国原氏が出直し宮崎県知事選で初当選して21日で1年。談合体質や県庁の裏金問題に切り込み、長らく「官」出身者が知事の座を占めた県政を身近にした。奔流のような宮崎ブームを起こした東国原県政二年目の現状と課題を追う。
=2008/01/22付 西日本新聞朝刊=
