
撮影・大矢 海寿帆
新聞記者になってもうすぐ1年。取材では走ったり山道に入ったりすることもある。歩きやすい靴を選ばざるをえない。
「休日にしかこんな靴を履けなくなったんだな」。ピンヒールを好んで履いていた学生時代が遠くなった気がした。
「次の休日は外に出よう。ミュールを履いて」。そんなことをぼんやり思う。休日の終わり。
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扉を閉じると街の喧噪(けんそう)が遠くなった。2年前、連載で取り上げた福岡市中央区薬院のカフェ。アキオ(38)はコーヒーをすすりながら、若者の転機を描いた連載と、自身の転機を思い返した。
コピーライターを目指して入った広告会社では営業担当。「ものを書く仕事がしたい」と、30歳で新聞社に転職した。
行政、事件事故などさまざまな取材を経験した後、バナ天の担当に。中でも力が入ったのは、アマチュアミュージシャンの取材だった。プロを目指して不安定な生活に耐える彼らを見て、リスクを恐れず理想を追う気持ちを失いかけている自分に気付いた。
広告会社で7年半。新聞社に入ってほぼ7年半。そのタイミングでバナ天が終わる。偶然と片付け難い思いを抱えたまま、カフェを出た。
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「それってどういう意味? 質問の意味がわかんない」。福岡市・天神のビルの1室。人気女優が、ススム(32)の質問をただした。気まずい空気が流れる。質問が抽象的すぎたのか。困った。今すぐ逃げ出したい。
バナ天の看板コーナー「GET」では俳優やミュージシャンにインタビューしてきた。「自分とは無縁の人々だと思ってきた。自分に何が聞き出せるのだろう」。インタビューが終わるたび、自己嫌悪に陥る。
そんなススムを支えたのは、読者のお便りだった。「楽しみに読んでいます‐」。文章や文字の“表情”が縮こまった記者の背筋を伸ばす。「読者に力をもらっている。それは、忘れたくない」
=おわり
=2008/03/28付 西日本新聞朝刊=
