【命をつなぐ 臓器移植法20年】<5>最期の願い生かすため

 外科医に交じって、小児科医が登壇した。北海道旭川市で9月にあった日本移植学会総会。「臓器提供体制が不十分で、ご家族の意思を生かせなかった。恥ずかしさ、悔しさが始まりでした」。九州大病院小児救命救急センター(福岡市東区)の賀来典之さん(41)は率直に語った。

 数年前、中学校で倒れた少年がセンターに搬送された。重度の脳出血。父親に脳死状態だと告げると「臓器提供はできますか」と尋ねられた。「やりましょう」と応じたものの、事務部から「子どもの提供マニュアルができていない」と待ったがかかった。

 九大病院での臓器提供は2010年の成人2人のみ。院内では「移植手術を数多く手掛けているだけに、提供に関わるべきではない。臓器が欲しいだけだと誤解されかねない」と消極論があった。

 結局は応じられず、父親にわびた。返ってきた一言に打ちのめされた。「実は、私はレシピエント(移植を受けた患者)なんです」。臓器提供の少なさと移植の恩恵を誰よりも知る父親が、わが子の命の終わりを受け入れて下した決断だった。それを病院の準備不足で生かせなかった。

 経験を糧に昨年、18歳未満の提供体制を整えた。脳死状態となった患者の家族に、病院側から提供の意向を確認する「選択肢提示」も始めた。

 日本臓器移植ネットワークによると、10~15年に18歳未満の臓器提供に関する情報照会があったうち、提供に至らなかったケースが83件あり、最も多い理由が「施設の体制が未整備」の17件だった。照会せずに病院が断ったケースも含めると、かなりの数に上るとみられる。

 子どもに限らず、提供者が成人でも病院側の負担は小さくない。そもそも救命を使命と考える医師にとって、救えなかった患者の家族に臓器の提供について説明するのは心理的にストレスがかかる。承諾後も家族対応の職員、脳死判定や容体管理をする脳外科医、麻酔科医らが24時間待機。手術室は二つ以上を確保し、全国から集まる摘出医にも対応する必要がある。体験した医師は「3~4日、ほとんど家に帰れない状態だった」と振り返る。

 九大病院のような千床を超える大規模病院ではないが、都城市郡医師会病院(224床、宮崎県都城市)にも2件の実績がある。最初の提供は小児からで、家族の思いに応えようと、ほぼ全職員が関わって体制を整えた。一方で中津留邦展(くにのぶ)副院長(60)は「日々かつかつで運営している中規模病院。提供には積極的になれない」と打ち明ける。

 「今のマンパワーでは自信を持って対応できない」と訴えるのは済生会福岡総合病院(380床、福岡市中央区)の則尾弘文救命救急センター長(52)。過去に1件、家族の希望を受けて臓器提供に臨んだことがあるが「国は掛け声だけでなく、体制を整えた病院に金銭的な手当をしなければ、臓器提供は増えないのではないか」と指摘する。

 こうした中、日本移植学会が「長崎方式」と呼んで注目するのが、九州で最も多い7件の提供経験がある長崎大病院(862床、長崎市)だ。

 長崎県内の場合、高度医療を担える病院が少ないため、当時の院長が「移植手術を推進するなら、提供体制も整えるべきだ」と指示。救命救急センターを設置した10年から選択肢提示を始めた。

 さらに医師らが積極的に取り組めるよう、診療報酬の一部を、脳神経外科や救命センターなど直接関わった診療科に手当として支給している。この秋には、一部に集中しがちな負担を軽減するため、全診療科がさまざまな後方支援に携わる体制も構築した。

 中心となる移植・消化器外科の江口晋(すすむ)教授(50)は、後に家族から「どこかで生きていると思えて励みになる」と聞き、臓器提供には悲嘆を癒やす効用もあると感じている。「救えなかった患者の最期の願いや家族の思いをくみ取り、生かす責任が病院にはある。終末期をどう迎えるか、一つの選択肢として臓器提供の話が自然にできるようになればいい」

 ●メモ

 脳死下での臓器提供が可能な病院は、大学病院や日本脳神経外科学会の専門医研修施設などに限定され、全国に896、うち九州には92。提供には(1)倫理委員会などの承認(2)脳死判定体制-などが必要で、厚生労働省によると3月現在、435施設が整備している。18歳未満の提供に必要な児童虐待への対応マニュアルや、虐待の有無を確認する防止委員会を整えているのは269にとどまる。

 診療報酬は移植施設が請求し、日本臓器移植ネットワークを通じて提供施設と配分する。移植が行われた場合、提供施設には(1)脳死臓器提供管理料81万円(2)臓器採取術料(心臓28万2600円、肝臓39万500円など)(3)手術器材セットの提供費(各4万円)-などの合計が支払われる。


=2017/11/20付 西日本新聞朝刊=

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