12月1日は世界エイズデー HIV偏見 今も根強く 医療、福祉関係者の理解を 差別解消が感染予防に

「陽性でも人生は終わりじゃない」と話す男性
「陽性でも人生は終わりじゃない」と話す男性
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 エイズやエイズウイルス(HIV)の治療は進歩しているのに、理解が進まない。患者や感染者への偏見は根強く、日常的な医療・福祉サービスを受けられない人も少なくない。正しい知識を広め、差別や偏見を解消することが感染予防に直結する。世界エイズデー(1日)を機に改めて考えた。

 「HIV感染者は診ない」と何度も断られた。風邪や腹痛は市販薬でやり過ごし、虫歯になると必死で歯科医を探す。福岡市の男性(60)はHIVに陽性と判明した8年前から、地域の病院にほとんどかかれなくなった。

 医療機関には、患者の血液が付いた器具で誤って外傷を受ける「針刺し事故」への不安が根強い。実際には、標準的な感染症対策を取り、治療中の人ならほぼ感染しない。正しい情報が医療従事者にも行き届いていない。

 男性自身も知識が乏しかった。同性間の性的接触で感染するケースが多いと知りながら、仕事でなかなか検査を受けられず、保健所が特別に実施した夜間検査にやっと足を運んだ。1カ月後に陽性の告知。「もう死ぬんだ。人生が終わった」と頭が真っ白になった。

 すぐに治療が始まった。厳しい経過を想像していたら、意外にも1日1回、昼食後に薬を飲むだけでHIVを抑え込めた。一方で「薬に詳しい人が近くにいたら…」と思うと人前で服薬できず、トイレに隠れて飲んだ。家族にも話せず次第に孤立。体は戻っても、差別を恐れるあまり、心がむしばまれた。

 ゲイやバイセクシュアル男性への予防、啓発に取り組む団体「Haco」(福岡市)と出合って立ち直った。今は仕事も恋愛も楽しんでいる。「陽性者の姿を知ってもらえば偏見がなくなるはず」と陽性者の集いを開き、行政や医療機関で体験を語っている。

 地域におけるエイズ医療の核となるブロック拠点病院。九州では国立病院機構九州医療センター(福岡市)が担い、ソーシャルワーカーの首藤美奈子さん(44)は月1回、正しい知識を広めるため、医療機関や福祉施設に出向いている。転院や介護施設への入所が必要な人が拒絶され、適切なサービスを受けられない現実を見てきたからだ。

 10年前に比べれば理解は進んだものの、今も受け入れを求めると半数は断られる。首藤さんは「高齢化が進む一方で、病気を打ち明けられずに家族と疎遠になる人も多い。地域の医療機関や福祉施設の利用が必要な人は増えると見込まれ、早急に理解を深める必要がある」と訴える。

 厚生労働省によると、九州は昨年、新規報告件数がHIV感染者94、エイズ患者は過去最高の75。全国の横ばい傾向に対し、増加が目立つ。Hacoの牧園祐也代表(34)は「偏見、差別をなくすことが検査を受ける人を増やし、結果的に感染予防につながる。社会全体で考える問題だ」と強調する。

 ●エイズ治療は進歩、感染力弱い 九州医療センター AIDS/HIV総合治療センター部長 山本政弘さん

 エイズの治療は進歩しており、必要以上に恐れることはない。

 1990年代は一度に何種類もの薬を服用しなければならず、副作用も激しかった。2010年代には1日1錠で血液中のエイズウイルス(HIV)をほぼゼロに抑え、免疫機能を回復させる薬が登場。きちんと服用すれば、年4回の通院で済む患者も増えてきた。

 早く発見して治療を始めれば、それまでと変わらない生活が送れ、感染させる恐れも少ない。そもそもHIVの感染力は非常に弱く、B型肝炎ウイルスの100分の1、C型肝炎ウイルスの10分の1とされる。性行為もコンドームを使えば感染のリスクは少ない。

 医療機関での「針刺し事故」にしても、肝炎ウイルスの感染対策ができていれば十分。事故があっても2時間以内に抗ウイルス剤を飲み、1カ月服用すれば心配はいらない。

 感染拡大を防ぐには早期診断、早期治療が重要だ。匿名で受けられる自治体の無料検査などを活用し、できるだけ早く検査を受けてほしい。夜間や休日にも検査を実施する必要がある。


=2017/12/04付 西日本新聞朝刊=

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