通院拒否する認知症患者、訪問診療に期待 自覚ない患者にアプローチ

「延命治療はせん」という認知症の女性(90)の自宅で診療する内田直樹医師(左)
「延命治療はせん」という認知症の女性(90)の自宅で診療する内田直樹医師(左)
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 ●通院困難者や介護者支援に意義

 「認知症の高齢者こそ、在宅医療の充実が必要」と、積極的に患者の自宅を訪問する認知症の専門医がいる。福岡市東区の「たろうクリニック」の内田直樹院長(39)は1日10~15軒を回る。2025年には認知症患者が65歳以上の5人に1人になるとの推計もある。認知症患者の訪問診療に同行した。

 2月下旬、内田院長はベテラン看護師(54)と福岡市の店舗兼住宅を訪れた。患者はこの日が初診の男性(73)。投資詐欺で1千万円以上の被害に遭っているが、家族に注意されても「きちんとした投資だ」と聞き入れないという。2人暮らしの妻(71)も物忘れが目立つ。離れて暮らす娘からの相談がきっかけだった。

 カジュアルなチノパン姿の内田院長は訪問診療と明かさず、さりげなく認知機能の検査などをした。診断結果は「中等度アルツハイマー型認知症」の疑い。男性には「一部の記憶能力の低下が気になります」と伝えた。

 男性は物忘れは認めたが、認知症を受け入れられないようだった。この男性の場合は自覚を持てるよう、大学病院での詳しい検査を勧めて約1時間の訪問を終えた。内田院長は「日常的に車の運転もしており、早く治療を始めた方がいい」と顔を曇らせた。その後、月1回訪問することが決まった。

 この日は午後1時半から約4時間で7軒を訪ねた。ごみがあふれる長屋に1人で暮らす女性、90歳の夫に老老介護される女性(86)…。いずれも通院が難しかったり、拒否していたりする。

 内田院長は「認知症の進行に伴い、自らが病気という意識がなくなり、通院したがらなくなるが、訪問なら受け入れられることが多い。医師が自宅を訪れることで在宅で過ごすための環境も調整でき、疲弊している同居家族の支援もしやすい」と意義を強調する。

 こんなケースもあった。認知症の男性(81)は2人暮らしの妻(75)への暴力や暴言があった。昨年10月の初診時、脳梗塞の後遺症などがあり、5種類の薬を服用していたが、睡眠薬や抗不安薬の影響で妄想や気分障害などが起こる「せん妄」状態にあることが分かった。すぐに、睡眠薬を変えるなど薬を調整すると、暴力や暴言は収まったという。以後、2週間に1回の訪問では落ち着いている。

 たろうクリニックの患者は、福岡市と近郊の約650人。2016年度の初診患者285人(平均81・8歳)のうち、231人が認知症だった。かかりつけ医などから紹介状があったのは215人で、約40%は「アルツハイマー型認知症」と診断が付いていたものの、24%は単なる「認知症」、約30%は認知症と診断されてもいなかった。

 内田院長は「認知症を見過ごす過小診断、基礎疾患について詳しく診断していなかったり、改善の余地があるのに適切な治療を受けていなかったりするケース、逆に効果や副作用の検討なしに漫然と認知症治療薬が投与されているケースも少なくない」と指摘する。

 内田院長の専門は精神科。全国に在宅療養支援診療所は1万4683施設(16年現在)あるが、精神科を掲げる施設は少ないといい、内田院長は精神科医の訪問診療の普及も訴える。

 認知症の訪問診療に取り組む精神科医で、横浜市立大医学部臨床准教授の内門大丈(ひろたけ)さんは「精神科医は、自分が病気という自覚がなく、受診を拒絶する患者へのアプローチに慣れている。認知症が増える時代、精神科医が在宅医療に参画するのは大きな意味がある」と期待を込める。

=2018/03/12付 西日本新聞朝刊=

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