密室での取り調べの問題点が指摘され、「裁判員制度導入前に可視化実現を」との声が上がった福岡県弁護士会など主催のシンポジウム=1日午後、福岡市

密室での取り調べの問題点が指摘され、「裁判員制度導入前に可視化実現を」との声が上がった福岡県弁護士会など主催のシンポジウム=1日午後、福岡市

 「起訴猶予になるような調書を作るから、協力しろ」「約束する。10日間で出してやる」

 昨年11月、鹿児島県警に出資法違反容疑で逮捕された女性(48)は、取調官から、身柄拘束からの解放を条件に、自白を促されたという。

 県警側は「(起訴猶予など)警察が関与できない手続きを取り調べに用いることはない」などと否定するが、女性が取り調べ状況をつづったというノートには、その様子が克明に記されていた。

 女性は何度も、自分も被害者だと訴え共謀を否定したというが、否認のまま起訴された。起訴後、鹿児島地裁への保釈請求は「証拠隠滅の恐れ」などを理由に、少なくとも3回却下された。鹿児島中央署での拘置は約3カ月に及び、不眠で心身に変調をきたした。

 「認めて出よう」。心配した家族の説得もあり、今年2月、弁護人と相談して起訴事実を認める内容の上申書と医師の診断書を添え、再度、保釈を申請。ようやく認められた。その後、女性は執行猶予付きの有罪判決を受け、刑は確定した。

   □   □   

 否認すれば、なかなか保釈が認められない-。 こんな傾向がみられる日本の刑事司法は、長年「人質司法」と批判されてきた。

 被告12人全員の無罪が確定した今春の鹿児島県選挙違反事件の一審判決は、身柄が拘束された状態の被告の心情について「有罪でも罰金か執行猶予の可能性が高い場合、刑事責任を負うかどうかより、身柄拘束がいつまで続くかのほうが、(被告にとっては)はるかに切実」と述べ、人質司法が虚偽自白を生む可能性も指摘している。

 裁判員制度のもとでは、初公判前に争点などを絞り込む公判前整理手続きや、短期間での集中審理に対応するため、これまで以上に被告と弁護人が事前に綿密な打ち合わせを行い、公判に臨む必要がある。被告が拘置された状態では、それがしづらい可能性がある。

 最高裁の司法統計によると、起訴後も拘置された被告の保釈率は昨年度13.4%。日本弁護士連合会は「なお人質司法の状態が続いている」との認識で、裁判員制度の導入を前に保釈制度の改革の必要性を訴えている。

   □   □   

 福岡市中央区で1日、捜査機関による密室での取り調べの可視化(録音・録画)実現を訴えるシンポジウムが開かれた。

 現在、自白調書の任意性を争う裁判では、被告と取調官の尋問を行うが、言った言わないの水掛け論になり、裁判官すら判断に迷う上、裁判長期化の一因ともされてきた。

 市民が参加しやすいように迅速化が求められる裁判員制度での法廷では、任意性の争いなどで時間がかからないことが望まれる。しかし、それは防御権の確保の観点からみて、被告にとって不利になるといわれる。

 これまでなら、ある程度時間をかけて弁護士が調査し、調書に記された内容と、客観的な事実との違いを指摘して、調書がうそであることを立証することが可能だった。 だが短期間では困難だ。だからこそ「自白の任意性が争いにならないよう、可視化によって取り調べ状況を変えるしかない」と、刑事弁護に詳しい美奈川成章弁護士(61)=福岡市=は言う。

 警察庁などは、依然として可視化導入に否定的な姿勢だ。人質司法や密室での取り調べ。「こうした刑事司法が抱える問題を克服しないまま始まれば、裁判員制度はうまくいかない可能性がある」。シンポジウムでは、元裁判官の弁護士らが、強く訴えた。

    ×      ×

 ▼自白の任意性 刑事訴訟法は捜査段階の自白調書など公判廷外の供述調書は原則として証拠能力を認めない。ただ検察官が作成した自白調書で、取り調べが強制や誘導がないなど特に信用すべき状況で行われたと認められれば例外的に証拠とできるとされる。このため、自白していた被告が公判で否認に転じた場合の多くは、警察官や検事を証人尋問し、どのような状況で取り調べが行われたのか調べ、裁判官が、自白が被告の自由な意思でなされたのかどうか、自白の任意性を判断することになる。

=2007/09/02付 西日本新聞朝刊=