熊本地震本震「別府・杉乃井」 震度6弱、その時ホテルは [大分県]

熊本地震でひびが入った杉乃井ホテルの客室の窓ガラス=2016年4月(同ホテル提供)
熊本地震でひびが入った杉乃井ホテルの客室の窓ガラス=2016年4月(同ホテル提供)
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杉乃井ホテルの全景。客室は(左から)本館、中館、hana館の3館に合わせて644室ある。後方右は鶴見岳
杉乃井ホテルの全景。客室は(左から)本館、中館、hana館の3館に合わせて644室ある。後方右は鶴見岳
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 県内で観測史上最大の震度6弱を記録した昨年4月16日の熊本地震本震から1年が経過した。あの日、全国有数の温泉リゾートホテル、杉乃井ホテル(別府市)では、満室の宿泊客約1800人がロビーや駐車場に避難したが、従業員が朝まで寄り添い、一人の負傷者も出さなかった。そのとき、ホテル従業員は何を考え、どう動いたのか。

 バーやボウリング場も営業を終え、ひっそりとしたホテル。午前1時25分、ドーンと突き上げる衝撃が襲った。2日前の前震以降に頻発していた余震とは全く違う揺れ方だ。

 「まずい。施設は無事か? お客さまは?」。車で約10分の自宅にいたホテル部長の友末重己さん(59)はすぐに被害の把握に動いた。建物にひびはない。自家発電も生きている。だが、窓ガラス約300枚が割れ、エレベーターは停止。644の客室を手分けして回り、安否を確かめた。

 宿泊客が浴衣姿のまま、ロビーや駐車場に集まり始めた。1800人が一斉に動くと、階段や廊下が人の波で埋まる。避難訓練では想定していない光景。「倒壊の危険はありません。安心してください」。誘導して毛布や水を配った。寒さを訴える客はマイクロバスで暖を取らせた。

 宿泊客全員の無事を確認したのは夜明け前。非番も含め、社員約250人のほぼ全員が駆け付けた。

   ■    ■

 「全部作るのは無理。炊き出しをすべきか」。午前3時すぎ、総料理長の成安宣章さん(67)は悩んでいた。約70品の朝食バイキングはホテルの売り。食材は前日までに納められ、冷蔵・冷凍庫も無事。ただ、ガスは安全が確認できるまで使えない。非常用プロパンは火力が足りない。

 幸い、調理スタッフも1時間早くそろった。「人海戦術で作れるだけ作ろう」。腹を決めたときにガス復旧の知らせが届いた。

 「よし、少しでも早く温かいものを」。避難客にコーヒーを運ぶ。全員が強い力に引っ張られるように動き回り、朝食開始を1時間前倒しできた。いつも通りのご飯やみそ汁に、疲れた客の表情が緩む。「温かい食事は人を元気づける。まさにそのものでした」

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 ホテルはこの日、6組の婚礼披露宴が予定されていた。熊本県内の新郎新婦は交通事情で延期したが、大分県内の5組は延期しなかった。招待される側の負担も小さくないからだ。

 「何もこんな日に、と思わせちゃいけない」。シャンデリアは落下しないか、避難ルートは安全か。ブライダル課長の坂田浩さん(57)らは何度も確認して客を迎えた。

 祝宴のさなかにも緊急地震速報のメールが響き、皆が身をすくめる。余震はあったが、何とか無事に終えた。「笑顔でサービスを尽くす。いつも通りがどんなに大切か、あれほど身に染みた日はありません」

 午前11時、ホテルは1800人を送り出し終えた。苦情はなかったという。総支配人の佐々木耕一さん(70)は振り返る。「お客さまに不自由をさせてしまったけれど、従業員は全力を尽くした。それを分かってくれたのだと思います」

=2017/04/20付 西日本新聞朝刊=

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