異常事態ただ恐怖 動けず避難所で記者も一夜 九州豪雨1週間 [大分県]

冠水した国道211号。周辺の水路などからあふれた水が川のように流れた=5日
冠水した国道211号。周辺の水路などからあふれた水が川のように流れた=5日
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日田市大鶴地区では至る所で山の斜面が崩落した
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 日田市にも大きな爪痕を残した九州豪雨から1週間。実は降り始めの5日、本社からの要請で、大きな被害が出ているとみられていた福岡県東峰村に取材に向かっていた。同村と隣接する大鶴地区経由で入ろうとしたが、同地区も激しい雨に見舞われて行く手を阻まれ、引き返すこともできなくなった。「これまでの雨とは桁違い」。不安におびえる住民とともに避難所で眠れぬ夜を過ごした。当時の状況を報告する。

 ワイパーで水を切ってもすぐに視界はなくなった。車を激しくたたき続ける雨音が不安をかき立てる。

 同日午後4時すぎ、大鶴地区へ入ると、水路や山から、国道211号に水があふれてきている。「これ以上は危険です。通せません」。JR大鶴駅付近で警官に制止された。日田支局に連絡を入れ、来た道を戻ろうとするが、10分前に難なく通れた道が冠水。すぐ脇の大肥川は茶色い水が暴れるように流れている。「車ごと流されるかもしれない」。無我夢中で来た道を引き返した。

 車を高台に止め、国道211号を歩いて避難所の大明小中学校の体育館へ。道路脇の溝からは水が噴き出し、しぶきを上げて車が走る。シャッターを切る手が震え、ピントが合わない。

 避難所の体育館にたどり着いたのは午後6時前だった。そこには既に着の身着のままで避難してきていた人が40人ほどいた。「家にいたら、あっという間に水に囲まれた」。口々に言っていた。玄関先では弱まる気配のない雨を見上げる人たちが、家族や友人の安否確認をしている。

 「夫と長男が軽トラックで立ち往生しているみたいなんです」。東峰村の女性(47)が市職員に訴えている。同市内の高校に通う息子と、迎えに行っていた夫の乗った軽トラックが水に囲まれたらしい。「軽トラックが流された」という情報も流れ、落ち着かない様子で何度も携帯電話を見る女性。しばらくして、無事に近くの避難所にたどりついたと連絡が入る。「良かった」。女性は胸をなでおろした。

   ※    ※

 午後6時50分ごろ、今度は避難所の市職員に「1人暮らしの高齢者が自宅で孤立している」と連絡が入る。近くを通りかかった消防隊員とともに、住民ら3人が救助に向かった。30分ほどして女性(86)が消防隊員に背負われて避難所へ来た。水に包囲された自宅で「仏壇の前で念じるしかなかった」と話す女性の体はぬれ、声は震えている。「一時は、もうだめかと思った。本当にありがたい」と深々と頭を下げる女性。救助に行った会社員男性(44)は「心細かったろう」と思いやった。

 午後9時。雨は少し落ち着いたが、それでもまた時折激しくなる。うつむいたり、横になったりしている避難者の表情には疲れがにじむ。子どもたちは無邪気に体育館を駆け回る。この時間になっても、毛布や食事など支援物資は届かない。道路が冠水し通行できず物資を運び込めないという。午後10時ごろ、近くの店舗で調達したカップ麺が配られた。昼から何も食べていない。のびた麺の味が体にしみた。

   ※    ※

 体育館にはテレビがなく、情報がほとんど入らない。「記者さん、東峰村はどうなってますか」。日付が変わった6日午前1時20分ごろ、大鶴地区から東峰村に向かおうとして足止めされ、避難していた村民3人が声を掛けてきた。5日午後7時以降、固定電話も携帯電話もつながらず、家族に連絡が取れないという。役場さえつながらない。分かる範囲で被害情報を伝えるが被害の全容は不明。母(93)が自宅に1人いるという男性(63)は「大丈夫と思うけど、今は、どうもできんもんね」とつぶやいた。

 硬い体育館の床に横になったのは6日午前3時半。遠くで雷の音がしている。胸騒ぎがして寝付けない。「これからどうなるのだろう」。不安ばかりが募った。

 一夜明け、顔を洗っていた女性が言った。「被害が心配で心配で、一睡もできんやった」。ただならぬ事態になっているとの思いを深め、取材を再開した。

=2017/07/12付 西日本新聞朝刊=

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