【意見】コミュニケーション不足に着目を 篠田徹氏

早稲田大社会科学総合学術院教授 篠田徹氏 
早稲田大社会科学総合学術院教授 篠田徹氏 
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◆働き方改革

 労働政策を見直す「働き方改革」は安倍政権の最重要課題だ。思えば英国のEU離脱にせよ、米大統領選挙におけるトランプ氏の勝利にせよ、最近の世界を揺るがす動きの震源は、いずれも労働問題だ。その意味で働き方改革も、グローバル化する労働問題の政治的主流化の日本的表れと解釈することもできよう。

 働き方改革は現在安倍首相が議長を務める「働き方改革実現会議」で議論が行われ、来春には改革実行計画をまとめる。焦点は残業規制と同一労働同一賃金の問題になるだろう。おそらく前者については、規制強化で意見は一致すると思う。後者は多分、一見同じ仕事をしているように見えながら、待遇の異なる状況に対する雇用者の説明責任をどこまで課すかで、合意が難航するかもしれない。ただ説明しないという選択肢はなくなるだろう。

 もっとも、仕事と待遇をめぐる「違い」の問題は、法律を作れば事足りる話でもなければ、雇用者の説明で落着するものでもない。大事なことは、その違いを働く人々の間で、いかに納得のいくものにするか、そのための合意形成をどう図るかが肝心だと思う。

 働き方改革の背景にあるのは、「ブラック企業」という言葉の社会的定着に代表される労働条件の悪化や、「ワークライフバランス」という言葉が警告する職業生活と家庭やその他の社会生活、あるいは個人の時間との不釣合いの問題だけではない。そこには職場の仲間、管理職や経営者と従業員、共働き、払われる労働と払われざるそれを分担する夫婦、あるいは会社と会社、会社と地域など、かつてあったはずの、働くことについてのさまざまなコミュニケーションが失われたという問題がある。

 この問題は、実は働くことにとどまらない。話を戻せば、英国のEU離脱もトランプ氏の勝利も、働くことをめぐるコミュニケーション不足に端を発している。またそれらの結果を、マスコミをはじめ多くの人々が予想外と驚くのも同じ理由である。働く人々のコミュニケーションの問題は、世界さえ変える。

 幸い日本には、人々が働くことを話し合う年中行事がある。春闘だ。今年もその季節がやってくる。これから来年4月まで、職場に労働組合がなくても、労働条件の問題がニュースとなって、耳や目に入ってくる。この間自分の労働条件について一度も考えない働く人々はいないはずだ。そこで今年は、賃上げだけでなく、是非職場や家庭や地域で、自分たちの働き方についても広く話し合ってほしい。それが本当の働き方改革である。

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 篠田 徹(しのだ・とおる)早稲田大社会科学総合学術院教授 1959年生まれ、東京出身。早稲田大政治学研究科博士課程修了。北九州大専任講師などを経て、97年から現職。専攻は労働史。著書は「世紀末の労働運動」など。


=2016/12/02付 西日本新聞朝刊=

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