【意見】カンパチダンスの残したもの 福井逸人氏

前鹿児島県鹿屋副市長 福井 逸人氏
前鹿児島県鹿屋副市長 福井 逸人氏
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◆鹿屋市を離れ1年

 カンパチの生きの良さを表現した「カンパチダンス」を高校生が運動会で踊る、市営ばら園での「薔薇(ばら)王子コンテスト」にイケメンやマッチョが集い壁ドンを競う、豚バラ肉を薔薇のように盛りつけた「かのや豚『ばら』丼」で丼パイ(乾杯)。私が鹿屋副市長在任中に取り組んだ、地域資源を活用した町おこしの一部だ。

 4年前、見たこともない鹿屋に副市長として赴任した。鹿屋市は人口10万人、豚24万頭、カンパチ年間100万匹。農水省の私からは資源の宝庫に見えたが、市役所も市民も「デパートが無い」「遊び場が無い」のナイナイ談議ばかり。

 こんなにあるのに、無いものを嘆いていてはもったいない! 「とにかく楽しく」「あるものを活用」「みんなが少しずつ参加する」を合言葉に、1次産業を生かした町おこしに市民を巻き込んで取り組むうち、様々なパートナーが現れた。カンパチ1匹の報酬で東京の音楽家がカンパチソングを制作。松竹芸能の女芸人半田あかりが収入を激減させてまで大阪から移住し市役所に勤務。豚ばら丼は全国のスーパーで8万食が販売され、カンパチは大手コンビニのおせちに採用された。

 昨年3月に鹿屋を離れ霞が関に戻ったが、すっかり鹿屋に魅了され、なかなか足を洗えない。大手飲食業の本社に食材を営業に行き、農水省では半田と漫才形式で鹿屋の町おこしを講演。爆笑漫才講演は各地の勉強会に呼ばれるようになり、某大学で半田のカンパチ解体ショー付きの講演も実現した。年休はすべて鹿屋のために使っている。鹿屋の営業のための交通費が自腹なのは妻には内緒だ。

 東京で1年過ごして感じるのは、鹿屋のポテンシャルの高さだ。楽しく伝えれば東京のマスコミがわざわざ取材に出かけてくれ、豊富な地域食材の商談も新たに進んでいる。ダンス動画は政府の公式フェイスブックに採用され、世界中で再生された。何がウリかを自分たちの常識だけで判断せず、外に打ち出してほしい。

 一方で、よそもの副市長がいなくなって取り組みの停滞を懸念する人もいる。業務多忙の市役所組織に推進を期待するのは難しいと覚悟していたが、市民や若手職員が「もっと楽しもう」と動き続けてくれているのがうれしい。在任中は実現しなかったチーズ作りも完成が近い。レストランが乳牛を購入し市内の農家に預託する、全国に例のない取り組みだ。

 カンパチダンスを踊り続けてほしいとは思わない。ただ、カンパチダンスを通じて感じた何か、たとえば地域の様々な資源や魅力の存在、外部パートナーの大切さ、みんなではっちゃけて、つながる楽しさを、鹿屋の次の挑戦に生かしてもらえれば、と心から願っている。

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 福井 逸人(ふくい・はやと)前鹿児島県鹿屋副市長 農水省商品取引室長。1973年生まれ、三重県伊勢市出身。東京大卒。96年同省入り。栃木県経済流通課長などを経て、2014年7月~17年3月、鹿屋市副市長。「踊る副市長」と呼ばれた。

=2018/03/16付 西日本新聞朝刊=

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