熊本県
【期待と失望と 参院選くまもと2010 1】公共事業 田舎の実情知る人を

シーズン入りを前に、ラフティングのパドルを点検する松下さん
ゴムボートで日本三大急流の球磨川を下る「ラフティング」は、年間2万人が楽しむ人吉観光の主役。手掛ける業者は20を超える。松下さんはその一つ「球磨川ABC」の実質経営者である。
本業は多良木町の建設会社社長。26歳で父から事業を託された。1980年代、バブル期には林道整備、道路改良と仕事が相次ぎ、県の入札参加資格の格付けはAランクにまで成長した。
趣味のボート遊びを仕事に変えたのは2003年の夏。川遊び仲間でもある社員に告げた。
「仕事がなか。明日からラフティングやっぞ」
国の公共事業削減のあおりで受注額はピーク時の3分の2に落ち込んでいた。努めて明るい声で切り出した異業種参入は、仲間の雇用を守る受け皿づくりでもあった。
あれから7年、客足は順調に伸び、ボートは14隻まで増えた。16人いるガイドの9人は建設会社社員を兼ねる。「今、本業は一番良かった時の3分の1ですけん。埋め合わせまではなかなか…」
日焼けした顔に、苦い笑いが浮かんだ。
■ ■
「コンクリートから人へ」。民主党は昨夏、政権を奪取すると自民党政権下で始まった公共工事削減をさらに進めた。
10年度の当初予算で公共事業費は前年度から18・3%減という過去最大の削減幅となった。
影響は県予算にも表れる。国の補助に基づく公共事業費は前年度比で約25%減った。およそ183億円分である。県は単独事業を5割増やしダメージ緩和に努めるが、県建設業協会の会員数は1989年度の1580社をピークに現在833社まで減っている。
民主党は今回の参院選公約から「コンクリートから人へ」の文字を外している。それでも国の財政事情や将来の人口減を踏まえると、かつて景気対策の王道だった公共事業が、昔日の面影を取り戻す道は、険しい。
■ ■
バリッ、バリッ。荒れた竹林から切り出された竹が、松下さんの会社の事務所裏に持ち込まれ、次々と粉砕されていく。
ラフティングを始めたのと同じ年、彼は無農薬の農業にも挑戦している。水田は今のところ40アールにすぎないが、今年からはアイガモ農法の代わりに田んぼに竹パウダーをまいている。竹の粉が持つという、農作物の成長促進効果に目を付けた。2100万円の粉砕機は自前で調達した。昨年12月からは竹の粉の販売事業にも乗り出している。うまくいけば、建設業の仲間にも、参入を呼び掛けたいと考えている。
「地方ではコンクリートも大事だ」
参院選序盤、松下さんは人吉市であった建設業者の会合に現れたある候補者の訴えに耳を傾けた。
その通りだとうなずいた。現実問題として、公共事業は地方経済の生命線だ。かつてのシャベルをパドルに、時にくわに持ち替える今、政治には向かうべき国の将来像を示してほしいと思う。
「公共事業を昔んごと戻せとは言えない。異業種進出には時間もかかる。やる気のある人を支える仕組みを実現してほしい。田舎の実情を知る候補や党に、投票したい」。 (中野剛史)
□ □
参院選の投票が近づいてきた。民主党政権は人々の暮らしにどんな変化をもたらしたのか。期待と、失望と…。変化に向き合う有権者の姿を追った。
× ×
▼公共事業費の削減 2001年誕生の小泉純一郎内閣は財政再建を理由に削減を急速に進め、1998年度約14兆9千億円あった事業費は、退任した2006年度に約7兆8千億円と半減。民主党政権は脱公共事業を一層進めている。川辺川ダム建設事業も1999―2001年度には年間151億円の予算がついたが、現在は五木村の生活再建費16・5億円だけ。
=2010/07/03付 西日本新聞朝刊=
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