朴大統領辞任へ 韓国政治の立て直し急げ

 人一倍頑固で気丈とされる大統領も、沸騰する国民の怒りに抗し続けることはできなかった。

 韓国の朴槿恵大統領が、友人の国政介入疑惑などの責任を取り、任期満了前に辞任する意向を表明した。この1カ月、韓国政界を揺るがしたスキャンダルは、大統領の任期前辞任表明という衝撃的な事態へと発展した。

 しかし、今後の韓国政局の展開は依然不透明で、混乱の収束は見通せない。韓国政治が長期的に不安定化すれば、北東アジア情勢にも悪影響を及ぼす。韓国政界は与野党とも事態の重大性を認識し、一刻も早い政治の立て直しに全力を挙げる必要がある。

 ●「縁故主義」の悪弊

 韓国では、歴代の大統領が任期終盤や退任後に自身や近親者にまつわる疑惑が発覚し、国民の非難を浴びるケースが相次いできた。全斗煥、盧泰愚元大統領は不正蓄財などの罪で投獄され、盧武鉉元大統領は家族の不正資金疑惑で追い詰められ退任後に自殺した。

 朴大統領はこうした前任者と比べ、政治体質は清潔だと思われていた。期待が高かっただけに、全く公職に就いていない友人が国政に介入する「政治の私物化」が明るみに出ると、「裏切られた」という思いが国民の怒りを一気に増幅させた。

 疑惑の背景にあるのは、韓国社会に根深い「縁故主義」である。組織よりも縁故や人脈で話が進む慣習が政治に及び、さまざまな不正につながる韓国政治のあしき伝統から、朴大統領も逃れることはできなかった。

 大統領に権限が集中する政治システムも、この傾向を助長している側面がある。

 今回のスキャンダルを機に、韓国政治はこれらの悪弊から脱却すべきである。

 ●迅速な政権移譲を

 朴大統領は談話で「与野党が、安定的に政権を移譲できる方策を策定すれば、それに従い退く」と表明した。辞任に至る手順を国会に委ねた格好だ。

 この手順がどうなるか、現段階でははっきりしない。野党が推進してきた弾劾訴追がこのまま進むかどうかも不透明である。

 通常なら辞任表明で政局が次のプロセスに進み、混乱の落ち着く先が見えるのだが、大統領が国会に方法を委任したことで、かえって方向性が見えなくなっている。

 辞任となれば後任を選ぶ大統領選が行われる。与野党とも混乱収拾のための協力などそっちのけにして大統領選を巡る駆け引きに走る可能性がある。混乱が長期化し、国政がストップしかねない。

 北朝鮮は金正恩体制下で核・ミサイル開発を続けており、アジアの安全保障情勢は一段と不穏になっている。政治混乱が韓国経済に及ぼす悪影響も指摘され始めた。

 与野党が政争にかまけている場合ではない。対決色が強く妥協は苦手なのが韓国政界の特性とされる。だが、ここは国政の正常化を最優先に据え、迅速な政権移譲へ知恵を絞ってほしい。今の韓国に空費する時間はないはずだ。

 ●日韓関係見据えて

 純然たる国内スキャンダルが発端の辞任劇だが、結果として日韓関係への影響も生じそうだ。

 昨年末、朴大統領と安倍晋三首相が従軍慰安婦問題を巡る政府間合意に達したことで、日韓関係は基本的に改善へ向かっていた。韓国国内では慰安婦合意に批判もくすぶる中、日本政府としては朴大統領が合意を着実に履行するよう期待していた。

 懸案だった日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も、朴政権は政局混乱の中で締結を断行し、日本側を安心させた。

 韓国に次期政権が誕生した場合、朴大統領の政策を「全否定」することで、国民に不人気だった朴政権との違いを際立たせる戦略を取るおそれがある。こうした手法が外交や安全保障に及べば、新政権が慰安婦合意やGSOMIAを見直す可能性も否定できない。いくら政権交代とはいえ、国家間で積み上げた協力をほごにするようなことは国際的信義に反する。

 韓国政界には国内政局と外交・安全保障とを冷静に区別し、大局的な見地から日韓関係改善の方向性を維持するよう望みたい。日本政府も粘り強く日韓関係の重要性を説き続けることが必要である。


=2016/11/30付 西日本新聞朝刊=

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