世相に見る1年 平成の時代とITの進化

 「平成」という私たちが生きてきた時代の大きな節目を感じる大みそかです。

 再来年には新しい元号になります。改元されることを事前に知った上で迎える新年は歴史的にもまれなことです。

 2019年4月30日に天皇陛下が退位し、翌5月1日に皇太子さまが新天皇に即位する-。特例法に基づく決定は、全国民に関わる今年最大の出来事だったといえるでしょう。

 退位は江戸時代の光格天皇(1771~1840)以来、約200年ぶりです。光格天皇は和歌や音楽を好み、性格は温厚で周囲の信頼と敬意を集めたと伝えられます。退位は47歳のときでした。

 時代は違っても当時の社会の空気は今日に共通するものがあったのでしょうか。先日の天皇誕生日の一般参賀には平成に入って最多の5万2300人が訪れました。

 ●社会の「闇」も映す

 平成を振り返りつつ今年を回顧すると、どんな1年だったか。

 情報技術(IT)が一段と進化し、インターネットや人工知能(AI)が社会にさまざまな影響を与えた年といえるでしょう。

 内閣府が今秋発表した世論調査の結果は象徴的でした。

 治安に関して犯罪に遭うかもしれない場所を尋ねたところ、「インターネット空間」と答えた人が6割に上りました。初めて繁華街や路上を上回ったのです。

 ネットは米マイクロソフト社のOSソフト「ウィンドウズ95」が1995(平成7)年に日本でも発売されたのを契機に、パソコンとともに爆発的に普及しました。

 今では個人のネット利用率は8割を超えます。市民に幅広く浸透したという意味で平成最大級の技術革新ともいえるでしょう。

 「忖度(そんたく)」と並んで今年の流行語大賞に選ばれた「インスタ映え」もネット関連の言葉です。インスタグラムという写真共有アプリに見栄えのする写真を投稿し合う流行を指しています。

 誰もが不特定多数を相手に「表現者」や「言論人」になり得るネット時代を映し出しています。

 一方、悪意を持てば、ネットが危険極まりない道具と化す恐ろしい出来事も起きました。

 神奈川県座間市で9人の切断遺体が見つかった事件です。ネットの匿名性を盾に、容疑者の男は自殺願望のある女性らを誘い出していました。

 人々の心と現代社会に潜む闇を浮かび上がらせる事件です。

 ●どう使いこなすか

 ITの力は経済界も揺るがしています。

 みずほフィナンシャルグループが従業員1万9千人と100店舗を減らす事業縮小策を発表しました。厳しい経営環境の背景には日銀の低金利政策のほか、インターネットバンキングの普及や金融とITを融合した金融サービス(フィンテック)の拡大があります。実店舗の来客数が10年間で4割減った大手銀行もあるそうです。

 地方銀行も置かれた状況は変わりません。駅前の一等地に陣取る店舗は経営の重荷になり、消えていく可能性さえあります。

 ネット通販の普及で宅配業務が急増したのも今年の特徴です。需要に追い付かず、宅配大手が通販大手に配達料の改定を要求したり、宅配の時間枠を短縮したりする対策を取ったほどです。

 政治の世界では衆院解散・総選挙の過程で保守とリベラルという既存の概念が揺れました。例えば、若者層は改憲を目指す自民党を革新、改憲反対の共産党を保守と捉える傾向にあるようです。

 水と油の関係だった自民、社会(当時)両党が連立政権を組んだ94(平成6)年から既に23年です。座標軸の変化は、既成概念にとらわれず、誰もがネットで情報を収集・分析できるようになった状況と無縁ではないでしょう。

 ちなみに今年、前人未到の記録を打ち立てた中学生プロ棋士の藤井聡太四段はAIを将棋の修練に取り入れた一人です。伝統の将棋と最新のAIの取り合わせは新たな時代の息吹を感じさせます。

 ITにせよ、AIにせよ、突き詰めれば、どう使いこなすか-という問題です。豊かで便利な社会に役立つか。思わぬ落とし穴にはまってしまわないか。問われているのは、やはり私たち人間自身だといえます。


=2017/12/31付 西日本新聞朝刊=

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