在外被爆者 国は法を尊重し救済せよ

 原爆による健康被害は「特殊な被害」であり、ほかの戦争被害と異なる-被爆者援護法はそう位置付けている。

 これを前提に厚生労働省はホームページに「日本政府は海外に居住する被爆者(在外被爆者)に対しても、国籍を問わず、被爆者健康手帳を交付しています」と記している。

 ところが、その姿勢は長年の間ぶれ続け、関係者を大きく混乱させている。大阪地裁が先月末に出した判決は、その振幅と混迷を象徴するといえるだろう。

 韓国の在外被爆者の遺族が国に損害賠償を求めた集団訴訟で、同地裁は訴えを全面的に退けた。本人の死後20年以上が過ぎたことで、請求権そのものが消えたとする国の主張を認めた。「除斥期間」という民法の考え方に基づく。

 この訴訟はもともと、厚労省が在外被爆者への賠償を進める方針を示したのを受けた訴えだった。

 舛添要一厚労相(当時)が2008年に「司法が判断すれば和解する」などと表明し、在外被爆者に提訴を呼び掛けていた。敗訴した原告からすれば、はしごを外されたのも同然ではないか。

 海外に移住すれば、救済の対象としないとする旧厚生省通達は03年に廃止された。最高裁は07年、通達自体を違法とする判決を出した。舛添氏の表明はこの判決を受けたものだ。国はこれまでに延べ約6千人と和解した。

 ところが一昨年、国は方針を一転させ、除斥期間を主張し始めた。除斥期間が経過した遺族と和解した事例が多数あるにもかかわらず、である。それまで不注意で除斥期間の経過に気付かなかっただけだと釈明した。一貫しない方針というだけでなく不誠実な態度だ。救済が公平でないことは正義に反すると言わざるを得ない。

 同様の訴訟は長崎、広島両地裁でも係争中だ。被爆者援護法は法制定の目的について「国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため」とも記している。

 勝手に法の精神をないがしろにしてはならない。

=2018/02/09付 西日本新聞朝刊=

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