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〈稲佐は長崎の港を見おろす、景色が美しいので有名な丘陵地帯である〉…

 〈稲佐は長崎の港を見おろす、景色が美しいので有名な丘陵地帯である〉。ケーブルカーで登った女性が眼下に広がる景色を指して言う。〈まるで何事もなかったみたいね。どこもかしこも生き生きと活気があって〉〈あの辺はみんな原爆でめちゃめちゃになったのよ。それが今はどう〉

▼英作家カズオ・イシグロさんの小説「遠い山なみの光」(小野寺健訳)は、戦後間もない長崎が重要な舞台だ。長崎を離れ英国で暮らす女性が、戦争で傷つき、かすかな光を求めて懸命に生きていた当時を回想しながら物語が進んでいく

▼長崎はイシグロさんの生まれ故郷でもある。5歳の時に日本人の両親とともに渡英し、後に英国籍を取得した。英国で育ち、教育を受けたイシグロさんは英語で執筆し、日本語はあまり話せないという

▼一方で「私の一部はいつも日本人と思っていた」とも。「遠い山なみの光」も原作は英語だ。翻訳者の力量もあろうが、外国文学のぎこちなさよりも、日本的な繊細さが伝わってくる

▼長崎での幼い日の記憶や両親との会話、小津安二郎の映画などからイシグロさんがつくり上げた「ニッポン」「ナガサキ」のイメージ。それは私たちの琴線に触れる「懐かしい日本」に通じるのかもしれない

▼イシグロさんのノーベル文学賞受賞決定を心から喜びたい。九州ゆかりの人の栄誉とともに、日本的な感性が世界に高く評価されたことにも。


=2017/10/07付 西日本新聞朝刊=

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